「談志楽屋噺」
売れない芸人というのは、それをみる人にとって中毒となることがある。のべつ同じネタを喋っているが、聴いている方は何気なく聴いているうちに、その芸の中毒になるものだ、と色川武大氏が言っていたが、してみると桂文楽の名人芸も柳好も、いや円生も三木助も、その技芸のリズムに、聴く客は中毒症状であったのかも知れない。
「談志楽屋噺」立川談志著(文春文庫) ISBN: 9784167522018
談志さん追悼で、落語家生活30余年のうちに出会った芸人たちのエピソード集を読む。
爆笑ものの思い出の数々を、断片的に次から次へと語って止まるところを知らない雰囲気。噺家さんは明治の香りがする大御所から笑点仲間らまで、その人柄や本名や師匠筋などをとうとうと。ほかにも漫才、講談、曲芸、奇術などなど、芸と芸人、寄席にまつわる貴重な証言が満載だ。
話題があっちこっち飛ぶし、話題にいちいち落ちがつく。まるで目の前に談志さんがいて喋っているようで、面白いやら寂しいやら。
登場する芸人は一部真面目な人もいるけれど、たいがいはハチャメチャだ。偉い人の葬儀といった、一番ふざけちゃいけないシチュエーションでふざける。いいセンスを備えながらあまり売れないまま、酒や博打で身を持ち崩す。
ダメであればあるほど紹介したいみたいで、談志さんはやっぱり強靱な常識人であり、だからこそダメが好きだったんだなあ、と思う。
もちろん好き嫌いははっきりしていて、徹底して論理的かつ不遜。巧い下手というだけでなく、内容があるかとか、粋かどうかの要求が厳しくて、先代三平さんなんかにはとても辛辣だ。
けれどそういう自分の評価と、売れる、世間に愛されるということとの違いもまたきちんと認識し、書き残している。深いです。
芸人同士や「旦那」の人間関係、寄席の風習などの解説も面白い。まだまだいろんな話を聞きたかったなあ。巻末に色川武大氏との対談を収録。1987年出版、90年に文庫化。(2011・12)
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