春疾風
「『浜松藩上屋敷に出る亡霊』の噂を知っているか」
こいつ、その話をしにきやがったな。
金四郎は察した。
「手前ぇこそ『面白ぇ話』を握ってたんじゃねぇか」
「何だ、金四郎でも知らぬ噂があるのだな」
狛犬が、嬉しそうに笑った。
「春疾風 続・三悪人」田牧大和著(講談社) ISBN: 9784062171250
浜松藩内部に兆す、春の嵐の気配。これに、からまない手はない。遠山金四郎、鳥居耀蔵、水野忠邦のくせ者3人が再びたくらみ合戦を繰り広げる。
「三悪人」の続編。今回は忠邦が危機に陥り、のちに老中まで上り詰める人物の裏話という趣向が興味をひく。3人が互いに騙したり利用したり、駆け引きは相変わらずシビアで、金四郎と耀蔵の関係もより微妙。とはいえ互いの知恵を認めている、そんな屈折も深まった感じだ。ちょっと屈折し過ぎと思うところもあるけれど。脇役も含めてワル揃いのなか、ちょっと粋で健気な女講談師が登場して、爽やかだ。
前作に続いて、キーマンの一人は腕のいい料理人。食べる者を唸らせる献立の描写が、本当に美味しそうだ。時代小説のトレンドなのか。(2011・9)
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