「世界をやりなおしても生命は生まれるか?」
動く油滴は、いくつかの化学反応式と、それを表す数式で表現できてしまう。でも、生命はそんな簡単なもので表現できないはず、というのもガット・フィーリングだ。でも数式では表現できない「何か」って、いったい何だろう?
「世界をやりなおしても生命は生まれるか?」長沼毅著(朝日出版社) ISBN: 9784255005942
1961年生まれ、極地や深海など辺境の「極限生物」の探究で知られる著者が高校生を相手に、生命とは何かという大問題を説く。広島大学附属福山中・高等学校での講演、および高校生10人との3日にわたる対話の記録。
語り下ろし形式は、「単純な脳、複雑な『私』」(池谷裕二著)や「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」(加藤陽子著)と同じ。抜群に面白かった2作に比べると、ずいぶん難しく感じてしまったのは、当方の生物学に関する知識が乏しすぎるせいです。
勝手に動いたり、分裂したりする油滴(ケミカル生命)。はたまたパソコン上で動くデジタル生命。いろいろな「生命っぽくみえるもの」を例にあげながら、「そうはいっても、直感的にこれは生命ではないと感じる(ガット・フィーリング)、その理由」を考察して、生命を生命たらしめるものに迫っていく。
読んだことがある「ワンダフル・ライフ」(スティーブン・ジェイ・グールド著)とか、「眼の誕生」(アンドリュー・パーカー著)の内容にも触れていて、そのあたりまでは数式のくだりを飛ばしつつも、なんとか付いていったと思う。けれど話題はどんどん進んで、宇宙のエントロピーとか「散逸構造」とか、哲学めいたテーマにまで到達しちゃう。あとで調べたら、散逸構造のノーベル賞受賞は1977年。私の常識がないだけで、生物学ってとっくに凄いことになっているらしい、と情けなくも痛感した一冊。(2011・10)
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