緋色からくり
ねえ、おとっつぁん、さっさと死んじまって、しくじったと思ってるだろう。だって長生きしてたら、今日あたり浅草寺の紅葉と懐かしい錠前の話を肴にして、父娘二人で旨い酒でも酌み交わせたじゃあないか。
「緋色からくり」田牧大和著(新潮文庫) ISBN: 9784101364315
腕のいい錠前師の緋名(ひな)が、姉のような存在だった従姉の死の真相を探る。
「女錠前師 謎解き帖シリーズ」第1作。女だてらに父の跡を継いだ錠前師のヒロインが活躍する。目明かしの女房だった従姉が、悪巧みに巻き込まれた。密かに真相を追い続ける緋名に、兄弟みたいな存在の髪結い甚八、その知人で飄々とした浪人・康三郎が加勢する。同じ著者の「三悪人」ほどひねってはいないが、良くできた時代物ミステリーだ。
江戸の職人の仕事ぶりが面白い。錠前のデザインに対するこだわりや、簡単に破られないように施したからくりの数々、顧客である商家との付き合い方。
働く女性としての独立心のほうは、ぐっと現代的な造形だ。緋名は美人なのに、藍の股引姿で男言葉を使う。ひと仕事終えて酒を楽しむシーンが、やたら出てきたりする。緋名を慕う辰巳芸者の祥太も、調子がいい奴ながら気っ風がよくて、なんだか応援したくなる。(2011・10)
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