潜伏
同一犯というならば、犯人は若年性痴呆症の患者をターゲットにしているということになる。
「潜伏」仙川環著(小学館文庫) ISBN: 9784094085112
若年性痴呆症の患者に、相次いで毒物入り飲料が届く事件が発生。長山歩美は同病を患っていた叔母も狙われていた、と疑念を抱き、主治医だった大学病院の佐野将彦と真相を追い始める。
「感染」の著者による医療ミステリーシリーズの第5弾。
謎解きや、犯人に迫るスリルに、歩美の心の変化をからめている。30歳を過ぎ、もう若くはない。特別な技能とか華やかな職業、頼れる恋人とかは持っていない。しかし、疑念を放っておけない正義感や行動力には、爽やかさが漂う。そんな彼女の自信、矜持というものを、いったい何が支えるのか。
将彦との関係も丹念に描いている分、ミステリとしてのスピード感は今ひとつか。医療に関する問題意識は間違いなく著者の強みなのだけれど、ひょっとすると徐々に関心が薄れているのかも。(2011・8)
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