三悪人
「探りまするか」
縫殿助がにっと笑って、忠邦へ伺いを立てる。
面白くなりそうよ。
「ゆるりとな。暖かくなるまでには、まだ間があるゆえ」
ふぁさり、と雪が地に落ちる音が、響いた。
「三悪人」田牧大和著(講談社文庫) ISBN: 9784062770019
目黒の祐天寺の火事には裏がある。さあ、その秘密をどう利用したものか。若き日の遠山景元(金四郎)、水野忠邦、鳥居耀蔵が花の吉原を舞台に繰り広げる虚々実々、三つどもえの駆け引き。
よく知られた歴史上の人物の青年期という設定で、とっつきやすいなあ、と読み始めたら、どんどん引き込まれた。粋な遊び人の金さん、美形で切れ者の水野、狛犬みたいな容貌ながら、野性の勘と妙に純情なところを備えた鳥居、という造形が、まず巧い。
さらにこの三人、揃いも揃って食えない奴なのだ。正義の味方のイメージがある金さんを含めて、タイトル通り、決して善人ではない。それぞれ思惑があって、隙あらば相手を利用してやろうと狙っている。非情なところもある。互いに相容れない価値観をもち、忌み嫌いながらも、悪知恵の働き具合に関しては一目置き、むしろ相手の悪だくみを楽しんでいたりする。このあたりの屈折ぶりが魅力だ。
時代劇冬の時代と言われるけれど、これは洒落たドラマになりそうな気がするなあ。(2011・9)
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