コンスタンティノープルの陥落
ギリシア人たちは、市の東の端し近くにある、聖ソフィア大聖堂に向かって逃げはじめたのだ。昔からの言い伝えでは、コンスタンティノープルが陥ち、敵が聖ソフィア大聖堂まで迫ってきても、その時大聖堂の円屋根の上に大天使ミカエルが降臨し、敵をボスフォロス海峡の東に追い払ってくれる、と言われてきたからであった。
「コンスタンティノープルの陥落」塩野七生著(新潮社) ISBN: 9784103096054
時は1453年。東ローマ帝国1000年の歴史に幕を下ろした、オスマン・トルコとの攻防戦を生き生きと描く。
個人的「トルコ強化月間」で、1983年初版の単行本の13刷を再読。栞のような地図がついていて、便利だ。
戦闘に関わった人々が残した、いくつかの手記を元に物語を構成している。歴史的事件を目撃した彼らの立場は実に多種多様。それが東西交易の要衝、文明の十字路であった都の、複雑な実像を感じさせる。
ビザンチン帝国の最後の皇帝コンスタンティヌスと、攻め込むスルタン・マホメッド2世それぞれの側近たちに加えて、ビザンチンと共に戦うヴェネツィアの医師や、ギリシャ正教徒なのにトルコ傘下にあったセルビアの軍人も、祖国の利権、安全を守るため異国の戦闘に身を投じていく。また、東西教会の合同を推進するギリシャ正教出身の枢機卿と、合同に疑問を持つ修道士も登場。イスラムの脅威にさらされたキリスト教社会の揺らぎが浮かび上がる。
最も苦悩するのは重要な貿易拠点を維持するため、なんとか中立を保とうとするジェノヴァ居留区の代官だろう。一方で、さほど思い入れがないまま巻き込まれるフィレンツェ商人もいる。
東ローマ帝国の滅亡によって、西欧世界は大砲や築城の技術を進化させ、大航海時代に突入していく。大きな歴史の転換点もまた、一人ひとり個人が形づくったのだ。(2011・8)
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