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August 12, 2011

コンスタンティノープルの陥落

ギリシア人たちは、市の東の端し近くにある、聖ソフィア大聖堂に向かって逃げはじめたのだ。昔からの言い伝えでは、コンスタンティノープルが陥ち、敵が聖ソフィア大聖堂まで迫ってきても、その時大聖堂の円屋根の上に大天使ミカエルが降臨し、敵をボスフォロス海峡の東に追い払ってくれる、と言われてきたからであった。

「コンスタンティノープルの陥落」塩野七生著(新潮社) ISBN: 9784103096054

時は1453年。東ローマ帝国1000年の歴史に幕を下ろした、オスマン・トルコとの攻防戦を生き生きと描く。

個人的「トルコ強化月間」で、1983年初版の単行本の13刷を再読。栞のような地図がついていて、便利だ。
戦闘に関わった人々が残した、いくつかの手記を元に物語を構成している。歴史的事件を目撃した彼らの立場は実に多種多様。それが東西交易の要衝、文明の十字路であった都の、複雑な実像を感じさせる。

ビザンチン帝国の最後の皇帝コンスタンティヌスと、攻め込むスルタン・マホメッド2世それぞれの側近たちに加えて、ビザンチンと共に戦うヴェネツィアの医師や、ギリシャ正教徒なのにトルコ傘下にあったセルビアの軍人も、祖国の利権、安全を守るため異国の戦闘に身を投じていく。また、東西教会の合同を推進するギリシャ正教出身の枢機卿と、合同に疑問を持つ修道士も登場。イスラムの脅威にさらされたキリスト教社会の揺らぎが浮かび上がる。
最も苦悩するのは重要な貿易拠点を維持するため、なんとか中立を保とうとするジェノヴァ居留区の代官だろう。一方で、さほど思い入れがないまま巻き込まれるフィレンツェ商人もいる。

東ローマ帝国の滅亡によって、西欧世界は大砲や築城の技術を進化させ、大航海時代に突入していく。大きな歴史の転換点もまた、一人ひとり個人が形づくったのだ。(2011・8)

「RURIKO」

私の見る目に間違いはありません。信子ちゃんは近い将来、とてつもない美女になるはずです。そうしたらぜひ女優にしてください。

「RURIKO」林真理子著(角川文庫) ISBN: 9784041579435

わずか4歳のとき、満州の地であの甘粕正彦に「将来、女優になるべきだ」と言わしめた女性。天性のスター、浅丘ルリ子の評伝。

知人に勧められて一気に読んだ。フィクションという断りはあるけれど、登場人物はほとんど実名、しかもとびきり華やかで、読んでいて楽しい。
ストーリーの大半を占めるルリ子さんの恋愛遍歴を、石原裕次郎、美空ひばりという、文字通り昭和を代表するスターが彩る。1960年前後の日活アクション映画が、どれほど熱気にあふれていたか。当時の日本人は彼らの格好良さ、きらめく才能に拍手喝采した。

ルリ子さんは日本人離れした美貌をもち、スクリーンで独特の存在感を発揮、やがてテレビや舞台にも進出する。けれど、財産にも男にも執着しないし、とくだん教養を身につけようとしない、そのことを隠しもしない女性として描かれている。
ライフスタイルに付加価値をつけて、自分を大きく見せようという気がないようだ。ただ前を向いて生きるからこそ幸福だという、このへんの潔さが気持ちいい。終盤に至って彼女の人生観が、冒頭の満州の夢と響きあう構成も印象的だ。素材と書き手との、幸福な組み合わせ。(2011・8)

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