ton paris
もう二十年も前になります。私は廿才代の元気のよさにまかせて、殆んど無銭旅行にひとしい状態で満州シベリアを経てフランスへ入りました。
「ton paris(トンパリ)」茂田井武・画、広松由希子・解説(講談社) ISBN: 9784062163569
1956年に40代で急逝した童画家が、若き日にパリで書き綴った画帳の全ページを、ざら紙風の書籍で再現した。ちょっと絵日記のような雰囲気。水彩や色鉛筆のあたたかい筆致で、1930年代パリの庶民の暮らしを写し取っている。画の間に、陸上競技の結果を報じた当時の新聞の切り抜きなんかもあって、日本人選手、人見絹枝さんの活躍のところに線がひいてあったりするのも興味深い。
初めのうちは街を行き交う人物を影法師のように描いているけど、だんだんと表情を描き込むようになっていく。活気があふれる酒屋や、ぶらぶら歩きながらすれ違う女性に見とれる警官。17区日本人クラブ周辺の空気の、なんと生き生きしていることか。
どうやらリアルタイムで描いただけでなく、帰国してから思い出して付け足した部分もあるらしい。写実的な記録というよりも、異国で皿洗いなどをしながら過ごした20代の若者の心情、ミルク屋とかパン屋で働く娘への、ほのかな恋心などがぎっしり詰まっている感じだ。ページを繰りながら、思わず微笑みが浮かんでくる。年譜などの資料付き。(2011・3)
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