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March 20, 2011

茂田井武

よるめざめたとき はぢめての世界をみた ふしぎな生生とした国が 四方八方に一ぱいにみえた みえたとおもえた それは私が 子供になっていたからだった

「茂田井武」茂田井武著・構成広松由希子(河出書房新社) ISBN: 9784309727066

昭和・大正の子供文化を伝えるビジュアル叢書「らんぷの本」の、思い出の名作絵本シリーズの1冊。絵雑誌「キンダーブック」で小川未明の童話に寄せた絵から、残された画帳、幼い娘に贈った手作り絵本までを、豊富な図版で紹介している。

大きな積み木で遊ぶ子供たちの姿、仮装行列する動物……。どの絵にも、子供の目から見た世界というものが溢れている。遊びに夢中になる躍動感とか、動物とも平気で会話できちゃうような感覚。
15年ほどの短い間に、数多くの子供向けの本の仕事をしているけれど、ほとんど残っていないという。通常の単行本に比べて粗末なつくりであることが多いうえに、読み手の子供が成長するにつれ、忘れられる運命だからだろう。残念このうえない。

友人であったコラムニスト山本夏彦や、次女・後藤暦さんの文章、評伝などを収録。(2011・3)

March 18, 2011

ton paris

もう二十年も前になります。私は廿才代の元気のよさにまかせて、殆んど無銭旅行にひとしい状態で満州シベリアを経てフランスへ入りました。

「ton paris(トンパリ)」茂田井武・画、広松由希子・解説(講談社) ISBN: 9784062163569

1956年に40代で急逝した童画家が、若き日にパリで書き綴った画帳の全ページを、ざら紙風の書籍で再現した。ちょっと絵日記のような雰囲気。水彩や色鉛筆のあたたかい筆致で、1930年代パリの庶民の暮らしを写し取っている。画の間に、陸上競技の結果を報じた当時の新聞の切り抜きなんかもあって、日本人選手、人見絹枝さんの活躍のところに線がひいてあったりするのも興味深い。

初めのうちは街を行き交う人物を影法師のように描いているけど、だんだんと表情を描き込むようになっていく。活気があふれる酒屋や、ぶらぶら歩きながらすれ違う女性に見とれる警官。17区日本人クラブ周辺の空気の、なんと生き生きしていることか。
どうやらリアルタイムで描いただけでなく、帰国してから思い出して付け足した部分もあるらしい。写実的な記録というよりも、異国で皿洗いなどをしながら過ごした20代の若者の心情、ミルク屋とかパン屋で働く娘への、ほのかな恋心などがぎっしり詰まっている感じだ。ページを繰りながら、思わず微笑みが浮かんでくる。年譜などの資料付き。(2011・3)

茂田井武美術館 記憶のカケラ

絵ハウソヲツカナイ
ウソヲツクコトノ
ドウシテモ出来ナイモノデアル

「茂田井武美術館 記憶のカケラ」茂田井武著、広松由希子・構成・解説(講談社) ISBN: 9784062149433

2008年の生誕100年をきっかけに出版された童画家の作品集を、改めて開いてみた。若き日のパリ行のスケッチや、雑誌「新青年」によせた挿絵、児童書の仕事などに分類してあり、資料編ともあわせて画業を俯瞰できる。

活動期間は決して長くない人だけれど、その魅力は童画の愛くるしさだけにとどまらない。たとえば病床で情熱をかたむけ、結局、遺作となってしまった絵本「セロひきのゴーシュ」には、奔放な詩情とでもいうべきものがあふれている。ゴーシュの奏でる音楽に目を丸くして耳を傾ける聴衆の中には、妻子をモデルにしたらしき顔も見えるとか。
巻末にある奈良美智、柴田元幸ら、茂田井ファンたちのコメントも興味深い。切り取って、手作りできる絵本の特別付録付き。まあ、もったいなくてとても切れないけど。(2011・3)

March 03, 2011

日本人の坐り方

点茶の作法の歴史を辿っていくと、必ずしも「正坐」が正しい基準であったわけではない。

「日本人の坐り方」矢田部英正著(集英社新書) ISBN: 9784087205817

元体操選手で、姿勢について研究しているという著者が、歴史的に日本人がどんなふうにすわってきたのか、を探る。

巻末の「おわりに」によると、「畳で30分で読めるような本を」というリクエストにこたえた著作だそうだ。たしかに絵巻、浮世絵などの図版が豊富で、するする読める。のっけから、江戸時代の茶道指南書ではいかにも行儀悪そうな「立て膝」が認められていた、といった蘊蓄が披露されていて、なかなか興味深い。
私たちは正式なすわり方といえば「正座」が常識なんだと、なんとなく思っている。では、いつから、どのようにして、そうなったのか?

時代が幕末までくだってくると、けっこうリアルな写真が残っているのも面白い。身分の高そうな武士の登城シーンで、そばに控えている家臣が見事なヤンキー座りをしている図なんか、ちょっとびっくりします。(2011・2)

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