「銀漢の賦」
(源吾よ、わしはまだ戦っておるぞ)
将監は胸中でいまは疎遠となっている旧友に語りかけると、反対意見を述べるために膝をのり出した。
「銀漢の賦」葉室麟著(文春文庫) ISBN: 9784167781019
西国の小藩、月ヶ瀬藩に3人の若者がいた。才気煥発な側用人の子息、小弥太(のちの将監)と、同じ剣術道場に通う男気ある源吾、そして百姓の身分ながら自立心旺盛で勉強熱心な十蔵。運命に翻弄された40年と、たとえ道はわかれても変わりえない思いを描く。
評判が高い時代小説を、ようやく読んだ。期待通りの面白さ。270ページと決して長くはないのだけど、ぎっしりとエピソードが詰まっていて、かつちっとも重苦しくない。
時代小説に慣れないせいか、前半はけっこう複雑に感じる。10代からの3人の足跡と、取り巻く人間関係に藩内部の熾烈な権力闘争や、親子2代にわたる様々な確執、秘めた恋が錯綜する。もっとも、文章の歯切れがもの凄くいいので情景にひたり過ぎることなく、テンポ良く読んでいく。
130ページを過ぎたあたりから、がぜん事態が動き出してページを繰る手が止まらなくなった。50を過ぎ、辣腕の名家老とまでうたわれた将監が、命を賭した大勝負を企てる。源吾は20年前のある事件を機に長らく絶交していたのに、将監の熱意に触れて、いささかあきれつつも巻き込まれていく。
ここまで来る間には、人に言えないような策謀を巡らしたこともある、妻子を泣かせたこともある。そうして白髪まじりになった、いい年をした男たちが、それぞれの譲れない思いを胸に抱えて、峠のいただきを目指すのだ。痛快で爽やかで、泣けます。
漢詩が、若い日々と現在とを結ぶキーになっている。その格調の高さ、清冽さが、なんとも効果的。脇役の魅力も見逃せません。例えばどうしようもなく俗物だけど、したたかで憎めない源吾の女婿、伊織。潔いばかりでなく、人間くさい登場人物が物語に厚みを与えている。松本清張賞受賞。(2011・2)
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Comments
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こんにちは。
あー、これは面白かったです。
普段時代小説はあまり読まないのですが、
堪能いたしました。
つづけて葉室麟さんを何冊か読みましたが、
いまのところこの「銀漢の賦」が一番かな。
Posted by: 木曽のあばら屋 | February 18, 2011 09:24 PM
木曽さん、こんにちは。
一番でしたか。SNSで知って読んだんですが、正解だったんですね~
たまたま電車で読んでいるときに、Ipodで「サムライソウル」を聴いていて、あまりにぴったりで笑っちゃいました。
Posted by: COCO2 | February 19, 2011 02:29 PM