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January 30, 2011

ヤフー・トッピクスの作り方

13文字という文字数は、目を動かさずに見出しが読めるという大きなメリットがあるからです。

「ヤフー・トッピクスの作り方」奥村倫弘著(光文社新書) ISBN: 9784334035587

ヤフー・ジャパンのニュースサービスのうち「トピックス」は、時々刻々の選りすぐりのニュース8本を、それぞれ13文字程度の見出しをつけて提供するもの。1998年にスタートし、ユニークユーザーで月約7000万を誇る。この人気サービスの方法論を、1969年生まれの編集長が解説した一冊。

トピックスのもとになる素材は、ヤフーが契約する150あまりもの通信社、出版社などから集めた膨大な情報だ。そこから随時8本を選び、1本ずつ見出しをつける作業は、ローテーションで勤務する人の力に頼っているという。臨機応変に価値づけし、読者をひきつけるように見出しを工夫する、という流れは、伝統的な「編集」と大きく変わらない気がする。

ネットならではと思えるのは、関連する情報にリンクを張ったりする点だろう。ユーザーの関心、疑問に的確にこたえるセンスが求められる。
読者があらかじめ登録したキーワードに合わせて、情報をふるいにかけるといったやり方は、いかにもネットらしいように思える。けれど著者がユーザーとしての経験をふまえ、むしろその利便性について慎重な姿勢を示しているのは興味深い。自社の話題をトピックスに取り上げてほしいと狙う企業に対して、魅力ある情報とは何か、1章を割いてアドバイスしている。(2011・1)

January 29, 2011

古書の来歴

たまたまはさまっていたパン屑を分析すれば一冊の古書についてどれだけのことがわかるか--それはもう驚嘆に値する。

「古書の来歴」ジェラルディン・ブルックス著(武田ランダムハウスジャパン) ISBN: 9784270005620

シドニー在住の女性研究者ハンナ・ヒースは1996年、国連から著名な稀覯本の修復を依頼され、いさんで紛争終結間もないサラエボに飛ぶ。稀覯本とは「サラエボ・ハガター」。中世スペインのユダヤの祈祷書で、珍しい色つきの細密画で知られていた。果たしてハガターはどのように記され、どのようにしてサラエボにたどり着いたのか? 1冊の美しい本が生き抜いた、文明の衝突と流浪の500年。

実在するというハガターを素材に、想像の翼を思い切り広げたフィクションだ。ハンナは残された蝶の羽やらワインの染みやらを分析して、過去に本がくぐってきた境遇を推理する。まるでリンカーン・ライムシリーズのように、ごく微細な手がかりを追う手際に、まず引き込まれる。

世紀末のウィーン、17世紀初頭のヴェネチア、さらに時代を遡ってスペインへ。わずかな手がかりからイメージが膨らみ、時代時代で本に関わった人々が生き生きと蘇る。短編小説のような一つひとつの逸話は、なんとも人間くさい。背景をつなぐのは、異端審問や追放などユダヤの民がたどった長い足跡だ。その苛酷さには、いささか圧倒される。

仕掛けはそれだけにとどまらない。合間に、現代を生きるハンナの恋とか、母親との軋轢といったエピソードが差し挟まれ、後半に至ってそうしたハンナの物語とハガターにまつわる遠い過去とが、響きあい始める。ミステリ要素まで、てんこ盛り。あくまで重厚な歴史譚を期待するとアテがはずれるだろうけれど、エンタテインメントとしてのサービス精神はたっぷりだ。

宗教や民族の深刻な対立は、今もなくなっていない。人類が経験した様々な悲しい史実を知っていてもなお、人は紛争を避けられないのか。けれど一方で、サラエボ・ハガターが生きながらえてきたということは、苛烈な対立を超えて本を救った人が存在した、ということだ。たとえそれぞれは、歴史に埋もれた名もない人物であっても。

著者はウォールストリート・ジャーナルでボスニア、ソマリア、中東などを取材。小説でピューリッツアー賞を受けたこともある。世の中には才能のある人がいるもんです。森嶋マリ訳。(2011・1)

January 18, 2011

デフレの正体

韓国、台湾は、日本からモノづくりのためのハイテク部材や機械だけを買っているわけではありません。豊かになった向こうの国民が、日本製品の中でもブランド価値の高いものを買い始めているのです。

「デフレの正体」藻谷浩介著(角川ONEテーマ21) ISBN: 9784047102330

地域振興の専門家が、多いときで年400回を数えるという講演録を再構成。2010年の話題本の一冊を読んでみた。

いろいろ議論を呼んだようだけど、「生産年齢人口=現役世代」の減少という人口オーナスが経済を落ち込ませている、内需減退と企業リストラのスパイラルを断ち切る努力が必要だ、という要旨は、素人目にはさほど奇抜なものには思えなかった。それをどうやって断ち切るか、が難問ではあるのだろうけど。

個人的には本筋とはあまり関係ない導入部分で、これからのニッポンの競争力とはハイテク製品より、食品とかファッション、家具といった軽工業にあるかも、といった指摘が興味深かったかな。

January 16, 2011

スローターハウス5

わたしは知的生命の存在する三十一の惑星を訪れ、その他百以上の惑星に関する報告書を読んできた。しかしそのなかで、自由意志といったものが語られる世界は、地球だけだったよ

「スローターハウス5」カート・ヴォネガット・ジュニア著(ハヤカワ文庫)  ISBN: 9784150103026 

第二次大戦末期の1945年2月、米兵捕虜としてドイツ東部で「ドレスデン爆撃」を経験したビリー・ビルグリムの人生。

半自伝的といわれる、あまりにも有名なSFを手にとってみた。280ページと、意外にさほど長くない。けれど、ストーリーはとても要約しづらい。

戦後、検眼医として穏やかに暮らしているビリーが、何故だか時間旅行者となって、過去と未来を行ったり来たり。はたまた空飛ぶ円盤で、科学技術が高度に発達した「トラルファマドール星」に連れ去られたり。まるでおもちゃ箱をひっくり返したようなはちゃめちゃさだ。全編が、ビリーが1986年にシカゴで撃たれる瞬間、頭を駆けめぐる脈絡のない回想、もしくは妄想のようにもみえる。

気の良い一アメリカ人の、どこか軽薄で、整理されていない人生。1969年にこの小説が出版されたとき、まだドレスデン爆撃は広く世に知られていなかったという。そう考えると、あまりにも衝撃的な体験と人間存在の不条理は理屈抜きに、そんなビリーの人生に託すしかなかったのかも、と思えてきた。
登場するトラルファマドール星人は宇宙を理解し、過去も未来も見通しているという。なんとも虚無的な世界観が印象的だ。伊藤典夫訳。

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