「ラスト・チャイルド」
ジョニーは早くに学んだ。なぜそんなにも他人と違うのか、なぜ少しも物に動じないのか、なぜ光を吸いとってしまうような目をしているのかと問われたら、こう答えるつもりだ。どこも安全ではないことを早くに学んだのだと。
「ラスト・チャイルド」ジョン・ハート著(ハヤカワ文庫) ISBN: 9784151767036 ISBN: 9784151767043
13歳のジョニーはひとり残された子供、ラスト・チャイルドだ。1年前に双子の妹アリッサが姿を消して以来、人生のなにもかもが暗転した。温かかった家庭をなんとか取り戻そうと、彼は妹の行方を追い始める。
「川は静かに流れ」の作家による長編3作目は、上下巻700ページの重量級。期待通り内容もずっしりと重く、イーストウッドタッチで読ませる。
舞台はおなじみノース・カロライナの田舎町。ジョニーの美しい母キャサリンは、アリッサの行方不明をきっかけに夫が失踪、家さえ失って、素行の悪い町の有力者の愛人となっている。酒と薬と暴力のすさんだ日々。一方、刑事ハントは、キャサリンとジョニー親子を遠まきに見守ってくれる存在だが、アリッサ探索にのめり込むあまり自身の家庭が崩壊、警察組織でも孤立しつつある。導入部からいきなり、登場人物それぞれの周囲に閉塞感という霧が分厚く立ちこめている。
ジョニーの目の前に、とつぜん橋の上から一人の男が落下してきて、物語が動き始める。男はアリッサの消息の手がかりらしき、謎の言葉を言い残して息絶え、 そこからは事件、また事件。あまりに悲劇が続くので、読むのがちょっと辛いくらいだ。おまけにジョニーが森で出会う大男フリーマントルは、ぶつぶつつぶや くモノローグがほとんど意味不明だし、中盤からは遠い過去のいきさつもからんできて、ストーリーの複雑さが増す。
けれどジョニーの健気さが、読む者をぐいぐいと引っ張っていく。寡黙で、幼いながら強靱な独立心と信じられない行動力をもち、へたに触れたらこちらが怪我をしそうな少年。「さびしくなんかない」と自らにきつく言い聞かせて、行方不明の妹のために、どんどん危険に飛び込んでいってしまう。
そんなジョニーも、たったひとりの親友にだけ見せる横顔には、胸にしまい込んだ深い喪失感が漂っている。これが、なんとも切ない。
読み進むうち、謎が解き明かされ始めると、どんどん勢いがつく。相次ぐスリル、二転三転の末に見えてくる、なかなかヘビーな真相。取り返しのつかない過ちと裏切り。登場人物それぞれが何かしら傷を負い、大切なものを失わなければならない。どうにも暗いんだけど、ラスト一行まできて、一筋の光がさす。じんと胸に残る、再生の予感。
前作に続いて、主人公が示す人間としての未熟さと、お母さんが美人、というところが、目が離せなくなるポイントなのかもしれない。アメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞。東野さやか訳。
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