「舞姫通信」
「思い詰めて、どこが悪いんだ」
「舞姫通信」重松清著(新潮文庫) ISBN: 9784101349114
研究に挫折し、しかたなく教師に転じた27歳の岸田。赴任した女子校では十年前、みずから宙に踊った「舞姫」という生徒のことが伝説となっていた。
ずっと積んでいた文庫を読んだ。簡単に解決の道が見えるわけではない、生真面目な空気は、この著者らしい。でも、名前の覚えが悪い教師と気まぐれな女子高生たちという、さほど深くはない人間同士のつながりに、一筋の光明が差す。
解説はなくて、かわりに著者による「文庫版のためのあとがき」がついている。それによると、フリーラーターとしての初仕事は岡田有希子に関する本だったという。そして、この作品の単行本が出たのは、いじめの問題がクローズアップされていた1995年。さらに10数年がたっても、若者が抱える悩みや、希望なき衝動は決して癒されていないけれど、私たちは諦めずに、しつこく考え続けるしかないのかもしれない。(2010・9)
« 「光媒の花」 | Main | 「しゃべれどもしゃべれども」 »
Comments