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August 12, 2010

「光媒の花」

「一生懸命頑張れば、この袋の中に世界中の虫を捕まえることだってできるんだよ」
「この袋に……?」
 そう、とサチは私を正面から見てうなずいた。
「虫だけじゃないよ、世界を全部入れちゃうことだって、できるんだよ」

「光媒の花」道尾秀介著(集英社) ISBN: 9784087713374

ある街の片隅でひっそり生きる男女、それぞれが抱く秘密と屈託を、蝶の視点でつないでいく連作短編集。

虫に花粉を運ばせる花に比べて、風に運命を託す「風媒花」の外見は地味だという。虫の目にとまるように、自らを飾りたてる必要がないから。
連作の登場人物たちは、年齢も職業もばらばらだけれど、みな風媒花のように、目立つことのない平凡な存在だ。けれど実は、口にはできない複雑な思いを抱えている。遠い日の罪の後悔とか、家族に対する長い間のわだかまりとか。

どちらかといえば淡々とした筆致が心地良い。陰湿なエピソードが続いたり、イメージの符合がちょっと強引過ぎるところもあって、決して完成度が高いとは思えないのだけれど、一抹の希望を感じさせる展開も巧みだ。金茶の色調が美しい装丁は片岡忠彦。山本周五郎賞受賞。

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