「ロード&ゴー」
一分一秒を争う重病外傷の現場において、生命にかかわる損傷の観察と処置のみを行い、その他は省略して五分以内に現場を出発し病院に搬送する。それがロード&ゴー--救急における非常事態宣言だ。
「ロード&ゴー」日明恩著(双葉社) ISBN: 9784575236767
第三方面渋谷消防署恵比寿出張所の救急車がジャックされた。犯人は衆人環視のなか、大都会を猛スピードで走り続けることを要求する。
止まれない車、人質や爆弾。映画「スピード」を思わせる舞台設定だ。実際、危機また危機ではあるのだが、手に汗握る派手なアクションとか、犯人の狙いの謎解きよりも、「お仕事小説」の色彩が強い。どうにもならない様々な矛盾を抱えつつ、現場で精一杯責務を果たそうとする無名の人々。ライト感覚の救急車版「踊る大捜査線」というべきか。
考えてみると救命医療をテーマにした人気ドラマでも、なぜか救急車に乗っている人々にはあまりスポットがあたらない。いったい常日頃どう働いているのか、ディテールの描写が面白かった。女性が爪にほどこす凝ったネイルアートが、救急の最前線で悩みの種になるなんて。
著者は興味がおもむくまま、消防署や消防大学校の公開日に一般見学者として足を運んだりするらしい。現場を愛する感じは楽天的過ぎる気もするけれど、そんなさめた気分は機関員(運転手)生田の、明るいキャラクターが吹き飛ばす。元暴走族という設定で、言動はがさつで下品。でも運転の腕は確かで、実は気も優しい。彼の妻の登場シーンは出色。
それにしても、たちもり・めぐみ、という著者名を読むのは難しいなあ。(2010・6)
« 「川は静かに流れ」 | Main | 「発酵食品の魔法の力」 »
Comments