「川は静かに流れ」
死と血は少年が大人になるために避けては通れない要素なのだ。
「川は静かに流れ」ジョン・ハート著(ハヤカワ文庫) ISBN: 9784151767029
青年アダム・チェイスはかつて殺人の容疑をかけられ、無罪となったものの周囲の目に深く傷ついて故郷を後にした。親友からの電話で5年ぶりに舞い戻った矢先、再びある事件に巻き込まれる。
2009年の各種ミステリベスト10に数多く選ばれた話題作を読む。淡々とした筆致ながら、色鮮やかな思い出のシーンと、対照的になんとも重苦しい現在とが交差する構成は見事。なんだかクリント・イーストウッドの映画を観ているような、ちょっとロス・マクドナルドのような。第2作にして、早くも巨匠の風格だ。
舞台はノース・カロライナ州の農場地帯。行ったことはないんだけれど、行間からはどこか蒸し暑くて、保守的らしい空気がたちのぼる。
そこで主人公が直面するのは、家族の問題だ。一度は自分を拒絶した父と継母、愛そうとしても互いに態度がぎこちなくなってしまう義理の弟妹、そして幼い記憶に刻み込まれた美しい実母の最期。やがてミステリとともに明らかになっていく彼らの真実。
血縁であろうとなかろうと、家族という存在からは、誰しも逃れようとして逃れられない。細部の描写に、普遍性が宿る。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞受賞。東野さやか訳。(2010・5)
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