「フォークの歯はなぜ四本になったか」
一六六九年、暴行を減らす対策として、フランス国王ルイ十四世は、先のとがったナイフの使用をーー食卓の上でも、町なかでもーー法律で禁じた。このような動向と、フォークの使用がしだいに普及したこととがあいまって、テーブルナイフの刃先は、今日よく見かけるような丸い形になった。
「フォークの歯はなぜ四本になったか」ヘンリー・ペトロスキー著(平凡社ライブラリー) ISBN: 9784582766936
どこにでもある日用品。それがどういう経緯で今のような形になったのか、知っているだろうか? 身近な実用品がかたちづくられた歴史を、米国の工学者がひもとく。
フォーク、クリップ、ファスナー。著者は400ページ以上にわたって次々に、見慣れた道具がどのように発達してきたかをたどっていく。正直、読み進むのにちょっと難儀するほどの情報量だ。まず、その熱意に驚く。
というわけで、なかなか消化しきれない小ネタが満載なわけだが、その小ネタの集積の中から徐々に、実用品の発達は決して一直線の必然ではなかったということが浮かび上がってくる。食べ物を長く保存したい、という欲求から、缶詰という優れた道具が考え出されたけれど、それに缶切りの発明が追いつかず、かつては店員が一つひとつ缶を開けてから客に持ち帰らせていたらしい、とか。
材料の普及、機能の工夫、経済性、そして社会背景。便利な道具がなかなか受け入れられないときには、単に「使い慣れていない」という人々の習慣の壁が、案外厚かったりする。今当たり前に使っている、ちっぽけな道具に、どれほどの先人の試行錯誤が宿っていることだろう。忠平美幸訳。(2010・5)
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