「1Q84」BOOK 3
もしそこに満たされないものがあったとしても、あなたは他人の家の戸口にそれを求めるべきじゃない。
「1Q84 a novel BOOK 3<10月-12月>」村上春樹著(新潮社) ISBN: 9784103534259
空に二つの月が浮かぶ世界「1Q84」。迷い込んだ青豆と天吾、そして有能で我慢強い追跡者、牛河がたどる運命。
平成ニッポンの記録的ベストセラー、その続編を読む。600ページもの厚みがあるけれど、案外長さを感じなかった。book1、2では不寛容や暴力という現代的モチーフを次々に繰り出して、読む側の意識を刺激したのに比べると、book3の展開はシンプルで、ゆったりした印象があるからか。外見はとても一途な、ボーイミーツガールの物語にみえる。
まあ、もちろん物語の途中にはいろいろな神話的イメージが織り込まれていて、その意味を考え始めたらとてもシンプルとは言えないんだけど。特に秀逸なのは、他人の家のドアを執拗に叩き続ける集金人ではないだろうか。その存在の強烈な不快さと、正体がわからない謎めいた感じは、並大抵の造形ではない。ある時は問答無用の権威のようであり、ある時は無責任で行き場のない匿名の悪意のようであり。
とはいえ読む進むうちに、もう謎めいたものは謎めいたまま、そっとしておいてもいいかもしれない、という気がしてきた。それくらいに、青豆と天吾がつつましく、愛らしかった。なんだか長い曲折を経て、「物語」の原点に戻ってきたような、でも迷いの時代を抜けて、少し大人になったような。はてさて、この先まだ続きがあるのでしょうか。(2010・5)
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