「再起」
体が汗ばんでいるのは恐怖のせいだと彼に思われるのがいやだった。だが、それが重要だろうか? イエス。私にとっては重要だ。
「再起」ディック・フランシス著(ハヤカワ文庫) ISBN: 9784150707415
隻腕の調査員、ご存じシッド・ハレー。彼に八百長に関する調査依頼が持ち込まれた直後、当事者の一人と目される騎手が殺害されてしまう。疑惑を追うハレーの周囲に忍び寄る魔の手。
フランシス追悼ということで、競馬シリーズ第41作を読んだ。妻メアリの死後、6年のブランクからフランシスが執筆に復帰。しかも長いシリーズのなかで最も印象的なヒーローであるハレーが、4度目に登場したという話題作です。
個人的に今までなんとなく手が伸びなかったのは、今思うと訳者の交代だったのでしょうか。長年、訳を手がけてきた菊池光さんが06年に急逝。菊池さん訳のちょっとこなれない独特の雰囲気が好きだったんですよね~。でも、本書巻末の解説で門井慶喜さんが触れているように、ニュアンスはつながっている、と感じました。
内容はおおむねいつものフランシス節でしょうか。次作の「祝宴」以降、息子さんフェリックスとの共著になったのだから、もしかしたらすでに本作も事実上、代替わりしていたのかもしれないけれど…
フランシス節というのは、言わずと知れた主人公が示す不屈のプライド、これに尽きます。それも誰かに向かって声高に訴えるのではない。ぎりぎり追いつめられたとき、もっぱら自分自身に対してだけ、一歩も引かないぞ、と思い定める姿勢。期待を裏切りません。ハレー顔負けに気が強くて、乾いたユーモアセンスを持つ恋人の登場も微笑ましい!
うまく伏線が回収しきれていないような、あるいは展開に違和感を覚えるような…と、細かく気になるところはあるけれど、とにかくこれまで長い間、読者を楽しませてくれた巨匠に、率直に感謝。北野寿美枝訳。(2010・2)
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