「天地明察」
「日と月を、算術で明らかにするか」
ますます不思議そうな酒井だった。かと思うと、やけに淡々とした、あるいは澄んだような目で春海を見た。
「天に、触れるか」
「天地明察」冲方丁著(角川書店) ISBN: 9784048740135
四代将軍、家綱の時代。幕府に仕える碁打ちの後継者に生まれながら、改暦という一大事業に乗り出した渋川春海の半生。
爽やかな物語だ。終盤こそ、目的達成のため政治的な駆け引きが繰り広げられるものの、全編を通して登場人物たちは皆びっくりするくらい一途。ひたすら算術を極め、天体を観測し、挫折を繰り返しながらも一歩一歩、信じられる暦というものに近づいていく。
正直、前半はちょっと爽やかすぎるかな、という物足りなさが頭をよぎる。しかし中盤過ぎ、春海と孤高の天才・関孝和との一途同士の対面シーンでははからずも
涙。単行本470ページ余の長さだが、軽みがあるからちっとも長く感じさせない。
1600年代の日本人の知恵には驚かされる。和算で日蝕の日付やら地球の公転の軌道やらをはじき出す。不勉強なせいもあるけれど、いちいち「おおっ!」と驚く。
さらに気分がいいのは、天才学者であれ政治家であれ、それぞれの人物がなすべきことをなすという、まさに天の配剤を目の当たりにする感じだ。例えば老中、酒井。今で言えばたぶん内閣総理大臣のような地位に上り詰めながら、常に淡々とした態度で平和国家の礎を築いていく。奢らず、かといって卑下もせず。人として、こうありたいものです。そのへんが作家のメッセージなのでしょうか。2010年本屋大賞第1位、第31回吉川英治新人賞受賞。(2010・2)
「天地明察」冲方丁 本を読む女。
最近読んだ本 『天地明察』 冲方丁著 りょうかんのブログ
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