「龍神の雨」
雨を見るたび、蓮は胸が苦しくなる。
あの日、雨さえ降らなければ、こんなことにはならなかったのだ。
「龍神の雨」道尾秀介著(新潮社) ISBN: 9784103003335
9月。台風が訪れて激しい雨が降りしきる数日間に、2組のきょうだいの悲劇が交錯する。
2010年の初読み。主人公たちが翻弄される、どうにもならない運命を、避けようがない雨に象徴させたところが憎い。そして終盤4分の1、種明かしに突入してからの、読むものの先入観を次々に覆していくスピード感はさすがだ。
ただ、設定の重苦しさはぬぐえない。なにしろ主人公たちは、ひと組は高校を出たばかりの兄と中学生の妹、もうひと組は中学生の兄と小学生の弟だ。幼い彼らの境遇、その心の屈折はなんとも痛々しい。基本的には子供たちの視点、つまり彼らが理解する範囲で物語が展開するせいか、伏線が解き明かされた後の納得感も今ひとつの気がする。もっとも、あえて主人公たちの視界に物語をとどめることで、彼ら自身が明日を切り開くということに、一筋の希望を感じさせる。(2010・1)
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