« 「ダブル・ジョーカー」 | Main | 「道具屋殺人事件」 »

October 17, 2009

「茗荷谷の猫」

せっかくこの町に来たのだ。一粒でもいい、変化を欲していた。

「茗荷谷の猫」木内昇著(平凡社) ISBN: 9784582834062

江戸末期から終戦後の東京まで、点々と続いていく市井の人々の運命のつながり。

本好きブロガーさんの間で評判だった連作集を読む。順に時代をくだりながら、様々な人生の変転を綴っていく。巣鴨・染井に住み、染井の吉野、すなわちソメイヨシノを世に送り出す植木職人とか、夫と心がすれ違ってしまった女流画家とか…。短編同士は一見無関係なのだけれど、エピソードが控えめに重なり合っていて、そのささやかな連鎖が、人の世の奇跡をしみじみと感じさせて、巧い。

登場人物はそれぞれ、何らかの情熱を内に抱えているようだ。あえて武士の身分を捨てて、名も無き一人の植木職人として生きたい、あるいは、平凡な勤め人の妻でありながら、画家として色彩への衝動を解き放ちたい。

各編に共通して印象的なのは、ストーリーの随所に観光名所といった当時の風俗が織り込まれていて、都市の日常が行間から感じられること。陰の主役はこの「街」ではないか、と思えてくるほどだ。どんな家に住み、どんな娯楽を楽しむか。人はそういう時代、時代の平均的な暮らし向きというものから、どうしたって逃れられない。しかし内に情熱を抱えていると、それがちょっとずつ日常からはみ出してしまって、ささやかなドラマにつながる。

連作の中では「隠れる」が、コミカルで楽しい。父の遺産で隠遁生活を送ろうと目論んだ人嫌いの男が、避ければ避けるほど他人との関わりに巻き込まれていく。本郷の古本屋にある、秘密の小部屋のイメージが秀逸だ。こういうところ、本当にあったら怖いなぁ。(2009・10)

「茗荷谷の猫」木内昇 本を読む女。改訂版
『茗荷谷の猫』 木内昇 Roko’s Favorite Things

« 「ダブル・ジョーカー」 | Main | 「道具屋殺人事件」 »

Comments

COCO2さん☆おはようございます
「隠れる」の耕吉さんの悩み方が面白かったですね。
目立ちたくても目立てない人、隠れたくても隠れられない人、人生とはままならぬものです。(^^ゞ

ども。
実は途中まで、筆者は男性だと思ってたんですよ。ちょっと出久根達郎さんを連想してました。

Post a comment

Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.

(Not displayed with comment.)

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 「茗荷谷の猫」:

» 『茗荷谷の猫』 木内昇 [Roko's Favorite Things]
茗荷谷の猫posted with amazlet at 08.10.06 木内 [Read More]

« 「ダブル・ジョーカー」 | Main | 「道具屋殺人事件」 »