「司法官僚」
司法行政職への任用の基準と制度があきらかにされないまま、特定の職業裁判官集団が司法官僚機構を構成し、司法行政を「専有」するならば、司法の「閉鎖性」をたかめてしまうことになろう。司法官僚の経歴や行動に注目せねばならないゆえんである。
「司法官僚」新藤宗幸著(岩波新書) ISBN: 9784004312000
行政学の研究者が、司法の中枢に位置する官僚組織の仕組みを探る。
考えてみればどんな組織にも、人事や予算はあり、それを統括する部署がある。行政組織、民間企業はもちろん、ある程度の規模ならNPOだってそうだろう。日本の裁判所の場合、そ れは最高裁判所の事務総局というところだ。そして人事や予算(人件費)のコントロールを源泉として、事務総局は全国の裁判所に対して一定の影響力を持つ。
著者はこのあまり世間で話題にならない、いわば顔の見えない事務総局のメンバーが一体どのように選抜・育成されているのか、といった疑問をもち、彼らの経歴など数少ない公開資料を丹念に追っていく。この分野に疎いので、いちいち「へえ~」と思いながら読んだ。
裁判員制度など一連の司法改革で、裁判所はここ数年、ずいぶん大胆に変わったという印象がある。けれどおそらく変わらない部分もあり、そこにはあらゆる組織が抱える自己防衛本能のようなものが感じられて、興味深い。市民の立場にたてばまだ改革の余地がある、というのが著者の視点だ。(2009・10)