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September 10, 2009

「廃墟に乞う」

 山本は苦しげに息を吐いてから言った。
「そうだ。はずみだ」
仙道は、不意に自分の肩が重くなったことを意識した。巨人が肩に両の手を置いたかのようだ。どうだ、おれの重さに耐えられるかと、そう問うているように。

「廃墟に乞う」佐々木譲著(文藝春秋)  ISBN: 9784163283302

ある事件がもとでPTSDを患い、休職中となっている道警刑事、仙道が、「個人的に」相談を受け、様々な事件に関わっていく連作短編集。

かねて気になっていた作家を初読み。大評判だった「警官の血」はうっかり先にテレビドラマで観てしまい、ほかのシリーズ物も面白そうだけれど、順に読んでいくと時間がかかると思って、まずは最近出た短編集を手にとった。

謎解きも、事件を取り巻く人間関係も淡々と描かれている。はじめのうちは、その読みやすい筆致と相まって、なんだかあっけない印象を受けた。けれど読み進むうち、味わいが深まっていく。自らも心に傷を抱える仙道は、人の罪、人の愚かさに対してとても敏感だ。一見クールにふるまっているけれど、その陰には刑事という仕事につきながら、あたかも罪の直視を避けるような、震える思いが潜んでいる。

1作ごとに、舞台は北海道の各地を転々とする。観光地、炭坑跡、漁港、牧場…。経済の閉塞を背景にしているのだろう、モノクロの、どこか殺伐とした風景が通奏低音となっていて、余韻を残す。(2009・9)

 書評「廃墟に乞う」 佐々木譲  身勝手な書評たち

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