「ハチはなぜ大量死したのか」
ミツバチの喪失は、太古から続けられてきた生活様式、産業、そして文明の礎をも脅かすことになった。
二〇〇七年の春までに、実に北半球のミツバチの四分の一が失踪したのである。
「ハチはなぜ大量死したのか」ローワン・ジェイコブセン著(文藝春秋) ISBN: 9784163710303
食と環境に関する著書が多いライターが追う、2006年秋に米国を襲ったミツバチの大量死「CCD(蜂群崩壊症候群)」の謎。
話題の科学ルポを読んだ。現代版「沈黙の春」と呼ばれるように、養蜂家のもとからある日忽焉とハチが姿を消す、という現象は、とても不気味。著者はその原因を求めて、農薬、ダニ、ウイルスなど様々な専門家の説を検証していく。
全編にハチをめぐる「知らないこと」が盛りだくさんで、とても興味深い。何気なく口にしているナッツ類や果物の生産が、いかにハチによる受粉に依存しているか。はたまた、国際競争にさらされ高度に工業化した米国の農業で、効率的に受粉を進めるため、ハチがどんなふうに酷使され、いかにストレスを受けているか。時にハチの目線でそのハードワークぶりを描いてみせるなど、語り口も軽妙だ。
豊かで安い食べ物に慣れ、それを求め続ける消費者のライフスタイルは、口で言うほど簡単には変えられない。だから時計の針を戻して、現代農業の主流が現在の経済効率を放棄するとことは、非常に困難だろう。そういう現実は、著者も十分了解している。
しかしそのために、生態系が本来もっている「復元力」を決定的に損ねてしまったら、結局はすべてが非効率に陥るリスクがある。ハチの話題にとどまらない、示唆に富む一冊。巻末にハチの飼い方などの付録付きなのがチャーミング。中里京子訳。(2009・4)
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