「星々の生まれるところ」
サイモンは彼女のそばに立った。今この期に及んでも、自分たちはうまく行かないーーさりといって、終わりにもできないデートをしているような感覚があった。
「星々の生まれるところ」マイケル・カニンガム著(集英社) ISBN: 9784087734492
ニューヨークを舞台に、ウォルト・ホイットマンの詩からの引用を縦糸として綴る過去、現代、未来の中編3編。
SNS読書会の3月課題本を読む。読む人によって、とてもいろいろなテーマを見つけることができる小説だと思う。
個人的に3編にはいずれも、背景に社会を覆う不安が感じられた。19世紀半ばの人間性を失いつつある産業社会とか、「9・11」後のテロへの恐怖とか、メルトダウン後の荒廃とか。それぞれ登場する女性や男児が、逃走を試みるけれども、不安に対して個人はどうしようもなく無力だ。その無力さ加減は、やりきれないほどで、1編目は正直、読み進むのに少し難儀した。
しかし緊迫したミステリー風の2編目、SFロードムービー調で、少しコミカルな3編目と、どんどん勢いがついた。きっと人と人は、わかりあえない。人造人間と異星人も同様だ。切なさが、リアリティをもって胸に迫ってくる。
でも、わかりあいたいという思い、希望は決して消えない。星の誕生を見に行くのは、そういう壮大な「繰り返し」を引き受けるということだろうか。3編を通じて登場する小道具や、共通する登場人物の名前といった仕掛けが、何気ないようでいて緻密だ。南條竹則訳。(2009・3)
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