「子どもの貧困」
何割かの子どもが将来に向けて希望をもてず、努力を怠るようなこととなれば、社会全体としての活力が減少する。格差がある中でも、たとえ不利な立場にあったとしても、将来へ希望をもてる、その程度の格差にとどめなくてはならない。
「子どもの貧困」阿部彩著(岩波新書) ISBN: 9784004311577
国立社会保障・人口問題研究所に所属する貧困研究者が、子どもに焦点を絞って日本の実態を分析、あるべき対策を提言する。
所得の中央値の50%という「貧困線」から、日本の子どもの貧困率は15%であり、欧州大陸の諸国などと比べて決して低い水準ではないと前提をおいたうえで、その実態を探っている。データが豊富で、素人にはその一つひとつを吟味することは難しく、正直言って消化不良ぎみになった。
そんななかで、「相対的貧困」の物差しは、なかなか興味深かった。現代の日本では、食べるものが全く無いとか、深刻な病気が蔓延しているといった切羽詰まった状況に陥る人は限られるだろうから、貧困対策の拡充をうんぬんするのは、ある種の「甘え」ではないかーー。そんな意見に対して、著者は指摘する。人は生きていくために社会の一員として他者と交流したり、人生を楽しんだりすることも必須で、それが欠けているかどうかの判断は相対的なものだという見方だ。
給付つき税額控除など、貧困対策の提言にあたる部分には、いろいろ議論があると思う。著者も「自己責任論」は十分、意識している。限られた社会資源を、どう配分したらいいのか。正論は正論、切実さは切実さとしたうえで、子どもの貧困を無くすことは未来へのセーフティネットになるという、いわば税金を使う効果の可視化も、あえて必要かもしれないと感じる。(2009・3)
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