「四とそれ以上の国」
藍はフンフンいいながら路線図を見あげる。読めない漢字ばかりだがそれがかえって新鮮だ。
「四とそれ以上の国」いしいしんじ著(文藝春秋) ISBN: 9784163277004
四国を舞台にした、幻想的な連作集。
いしいワールドは、いったい何処までいくのか。「みずうみ」で民話的な世界から一歩踏みだし、現実との接点をもった後、いったい次はどうなるんだろうと思っていたら、四国である。人形浄瑠璃やお遍路やら、四国らしい事物を散りばめつつ、うねるような文体で奇天烈なイメージを連打。町ひとつ塩に埋もれてしまうとか、もう頭がくらくら。もちろん、描かれるのは空想の四国だ。しかし、この「四国」は妙にリアルで、もう「風土」とでも呼びたいような世界だ。
特に、連作最後の「藍」が印象的。出荷前で、人にたとえるなら16、7の乙女である貴重な藍染めの原料が、まさに目には見えない少女の姿となって、ある日すらりと立ち上がり、職人のもとを逃げ出す、という設定のファンタジーだ。この、みずみずしさ。
本好きのブログなどを読んでみると、けっこう難解という声がある。確かに善も悪もなく、教訓もイメージの種明かしも結論らしきものも皆無。いつにも増して、好き嫌いが分かれそう。でも個人的には、存分にくらくらしたのち、不思議なカタルシスがあった。気づかないうちに、身のうちにある「風土」。
連作のなかで繰り返し、見えそうで見えない、読めそうで読めない、聞き取れそうで聞き取れない、というシーンが登場する。生きて暮らしていくことは、なんともどかしいことか。(2009・3)
四とそれ以上の国 いしいしんじ 文藝春秋 おいしい本箱Dairy
四とそれ以上の国/いしいしんじ 記憶の記録
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