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January 28, 2009

「造花の蜜」

犯罪を犯罪という尺度で測れば、犯罪でなくなるのではないか……

「造花の蜜」連城三紀彦著(角川春樹事務所)  ISBN: 9784758411240

五歳になったばかりの利発な少年、圭太が幼稚園から連れ去られた。家族と捜査陣は、誘拐犯の予想外の言動に翻弄される。

ブロガーの間で評判がいい、480ページの長編。直木賞受賞の「恋文」以来、この著者を読むのは実に四半世紀ぶりだ。文章は遠い昔の印象通り、いたって端正。しかし正直、240ページあたりまでは読み進めながら少しイライラした。というのも、伏線めいたエピソードや、蜜とか血とか思わせぶりのイメージが盛りだくさんな一方で、登場人物の誰の言うことも釈然とせず、どこまで本気か信じられない感じなのだ。隔靴掻痒というか、どうも現実感が伴わない。

ところが後半に入って、別の視点から誘拐が語られ始めると、一気に事件が別の顔を見せて、驚かされる。そこからは勢いがついた。いったい「囚われる」とは、どういうことなのか。尽きない欲望によって複雑になってしまった現代社会。人は何かしら、秘密をかかえている。例えばそれは誘拐された少年の、出生の事情のように。

そういう秘密のせいで、人はまるで誘拐事件の被害者のごとく、不自由に生きていたり、あるいは誘拐事件の加害者のように、ほかの誰かを縛り付けてしまったりしている。そんな「囚われた生活」の、どこまでが罪で、どこまでが罪でないか、境界があやふやになっていく面白さ。

たまたま最近出かけた越後湯沢が、舞台の一つとして登場。その北国に降る雪と、思い出の夏の日差しとが、合わせ鏡のようにオーバーラップするシーンが印象的だ。ちなみに最終章の第二の事件は、おまけというか、コース料理の後のデザートのような感じ。ストーリーとしては何だかまとまりがないと思うんだけど、いっそう煙に巻かれちゃいました。紗がかかったような蘭の花の装丁が美しい。(2009・1)

造花の蜜/連城三紀彦   銀の翼
造花の蜜 連城三紀彦 A  棒日記
連城三紀彦『造花の蜜』   こんな夜だから本を読もう

January 26, 2009

「文楽のこころを語る」

 なんぼ床本がかわいそうな文章でも、語り方が悪かったらかわいそうに聞こえまへん。こんなええ浄瑠璃を語らせてもろうてお客さんに泣いてもらえなんだら、よっぽど大夫が悪いのです。
 こんな結構な浄瑠璃をやらせてもろうて、大夫冥利につきます。

「文楽のこころを語る」竹本住大夫著(文春文庫)  ISBN: 9784167753306

人間国宝、住大夫さんによる楽しい演目解説。

めったに上演されない「五人伐」という珍しい演目から、「忠臣蔵」などの定番まで19演目。住大夫さんがそれぞれを語るうえで、どういうところに気を配っているかを解き明かす。息やテンポで、年齢も境遇も違う人物を細やかに描き分け、ストーリーの盛り上がりを表現する。三味線との稽古風景や、拍手がほしいポイントなども、ざっくばらんに話していて興味深い。初心者としては、観たい演目がたくさんあるなあ、と楽しみになってくる。

芸への厳しさ、こだわりの強さはもちろんだが、演目解説の合間に自らの浮気体験なんかをちょこっと話す茶目っ気も相変わらずで、魅力的。山本千恵子さんによる聞き書き。茂山千之丞さんとの対談も収録。(2009・1)

 竹本住大夫 文楽の心を語る   文楽を見に行きませんか?
「文楽のこころを語る」 竹本住大夫  おりおん日記

January 22, 2009

「聖女の救済」

こんな犯人はいない。古今東西、どこにもいない。理論的にはありえても、現実的には考えられない。だから虚数解だといったんだ

「聖女の救済」東野圭吾著(文藝春秋)  ISBN: 9784163276106

IT企業社長が自宅で毒殺された。その驚くべき真相。

人気の探偵ガリレオシリーズの長編最新刊。380ページ近くを、二日間という、遅読の私としてはあっという間に読み終わった。やはり、この読みやすさは半端じゃない。
被害者の極端な造形とか、いつもは手堅い草薙刑事が一番の容疑者とほとんど一瞬にして恋に落ちるとか、ちょっとありえない、と感じる部分もあるのだけれど、読みやすさのあまり、気にならない。
うまいのは、そういう無理めの設定や、登場人物それぞれの思いが、いちいち謎解きにリンクしていて、最後にはすべてのピースが残さず使い切られ、すっきりと収まるところ。どちらかと言えば、こぢんまりしているけれど、きれいなジグソーパズルを完成したような心地よさだ。情念を描きつつ、描き過ぎない職人芸。

登場人物のなかでは女性刑事、内海薫の生意気加減がいいな。多くのブロガーが書いているように、主要な登場人物がドラマ、映画の配役と重なってしまってイマジネーションが制約されるけど、まあ、許容範囲です。
そういえば08年の東野さんは、映画、ドラマ2作も面白くて、出版とうまく循環し、人気作家というより「東野ビジネス」という別次元に突入した感じでした。ガリレオの短編集も読まなくっちゃ。(2009・1)

January 21, 2009

「白川静」

 いわば漢字は、今日のわれわれが失ったかもしれない多くの記憶をよみがえらせる「時空の方舟」だろうと言っているわけです。漢字はまさに四角い方形の姿をした「意味の舟」たちなのです。

「白川静 漢字の世界観」松岡正剛著(平凡社新書)   ISBN: 9784582854404

「千夜千冊」で知られる著者が、熱く綴る「白川学」入門書。

松岡さん、のりのりです。大胆、孤高の学者の人物像と業績を語るのが、嬉しくてしかたないみたい。漢字の起源の研究者、というくらいの知識しかなかった情けない私も、なかなか楽しく読んだ。
関係ないけど、タイムスリップをテーマにしたジャック・フィニイの小説「ふりだしに戻る」を連想した。白川静という人は、具体的な文字のかたちを丹念にたどることで、もう、紀元前1000年とか500年とかの古代に飛んでいって、古代人たちの願いや祈りを生々しく呼吸してしまう。強靱なイマジネーションと、それを支える知力の深さ、鋭さを備えた人だったんだろう。

面白いのは、漢字そのものに象形文字、表意文字として長い歴史を生き延びた、類い希な生命力があって、それが白川静の誇り高い軌跡と、どことなく重なる印象があることだ。そして、そのタフな文字を異国から取り入れた側である日本文化の、融通無碍さに関する考察も興味深い。漢字に独自の読み方をどんどん付け足し、使いこなし、かなやカナまで生み出した。なーんにも考えていない私だって、そういう文化の恩恵を日々、受けているんですよ。驚き。
欄外に並んだ、妙なかたちの甲骨文、金文の図も興味津々だ。(2009・1)

January 18, 2009

「水の家族」

 草葉町自慢の三重連の大水車が回っている

 水車のひとつは惑星のように回り、もうひとつは銀河のように回り、あとのひとつは大宇宙のように回り、全体としては人間の運命のように回って、清冽な水を盛大に汲みあげている。

「水の家族」丸山健二著(求龍堂)  ISBN: 9784763006356

三十歳を目前にひっそりと生を閉じた男の意識が、郷里を飛翔し、家族の過去と現在を見つめる。

あるSNS読書会コミュの課題本。敷居が高い先入観があり、手にとったときはおそるおそるだったけど、意外にするすると読んだ。作家による再構成復活版だそうです。
一ページに一つか二つの割で独立した一行を挟み、詩のようなリズムで綴っていく独特のスタイル。安曇野に住む著者の手になるものか、ところどころに掲載されたモノクロ1ページの植物写真もアクセントになっている。

競走馬の牧場を抱えた餓鬼岳、漁師が行き交う天の灘に取り囲まれた草葉町に、「泣いて流れる」忘れじ川。この箱庭のような原風景には、初めからずっと、すべてを諦めた雰囲気が色濃く漂っている。まあ、主人公はある事件がきっかけで家を飛び出したものの、作家になる夢もかなわず、都会で命をすり減らしたという設定だから、深い諦念が漂うのも致し方ない。

しかし残された家族は終盤に向け、それぞれ屈託を抱えながらも不思議な生命力をみなぎらせていく。それを包み込むような、町をめぐる水の循環。

三浦しをんさんの愛読書としても知られる。個人的にはたぶん、よくわかってはいないのだけれど、なんだか不思議と読後感のいい一冊でした。(2009・1)

『水の家族』丸山健二  ココロの森
丸山健二さん、『水の家族』 本読みの日々つらつら

January 17, 2009

100冊文庫

読書SNSの企画「やっぱり本を読む人々。の文庫100冊」の選出が終了、みごと100冊決定しました! 末尾に転載します。壮観。皆で候補作を推薦して、選んでいくプロセスは本当に面白かったです…

で、100冊のうち私の未読がなんと63作も。お楽しみがいっぱいあるなぁ。まずは優先して読みたい11作をメモしておきます。

●早く読む

「上弦の月を喰べる獅子」夢枕獏
「しゃべれどもしゃべれども」佐藤多佳子
「カタブツ」沢村凛

「影武者徳川家康」隆慶一郎
「空飛ぶ馬」北村薫

「マイナス・ゼロ」広瀬正
「日の名残り」 カズオ・イシグロ

「悪童日記」三部作 アゴタ・クリストフ
「香水ある人殺しの物語」パトリック・ジュースキント

「夏への扉」ロバート・A・ハインライン

「燃えるスカートの少女」エイミー・ベンダー

そして100冊の全貌は以下の通り。

●やっぱり本を読む人々。の100冊

「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」村上春樹

「コインロッカー・ベイビーズ」村上龍

「大地の子」山崎豊子

「グロテスク」桐野夏生
「告白」町田康

「アラビアの夜の種族」古川日出男

「上弦の月を喰べる獅子」夢枕獏

「本格小説」水村美苗

「ゆれる」西川美和

「鳥類学者のファンタジア」奥泉光

「暗いところで待ち合わせ」乙一
「ガダラの豚」(全3巻)中島らも

「麦ふみクーツェ」いしいしんじ

「家守綺譚」梨木香歩

「センセイの鞄」川上弘美

「Presents」角田光代
「さがしもの」角田光代

「白い薔薇の淵まで」中山可穂

「きらきらひかる」江國香織

「対話篇」金城一紀

FUTON」中島京子

「ツ、イ、ラ、ク」姫野カオルコ

「ポプラの秋」湯本香樹実
「キッチン」吉本ばなな

「幸福な食卓」瀬尾まいこ

「東京バンドワゴン」小路幸也

「カタブツ」沢村凛

「しゃべれどもしゃべれども」佐藤多佳子
「黄色い目の魚」 佐藤多佳子
「ひなのころ」粕谷知世

「十一月の扉」高楼方子

「DIVE!!」(上下巻)森絵都

「檸檬のころ」豊島ミホ

「翼はいつまでも」川上健一

「氷の海ガレオン/オルタ」木地雅映子

「夜のピクニック」恩田陸

「三月は深き紅の淵を」恩田陸

「ドミノ」恩田陸

「竜馬がゆく」司馬遼太郎

「蝉しぐれ」藤沢周平

「火怨」高橋克彦

「影武者徳川家康」隆慶一郎

「蒼穹の昴」浅田次郎

「後宮小説」酒見賢一

「邪馬台国はどこですか?」鯨 統一郎

「火車」宮部みゆき

「李歐」高村薫

「白夜行」東野圭吾

「永遠の仔」天童荒太

「大誘拐」天藤真

「テロリストのパラソル」藤原伊織

「亡国のイージス」福井晴敏
「第三の時効」横山秀夫

「空飛ぶ馬」北村薫

「重力ピエロ」伊坂幸太郎

「天使のナイフ」薬丸岳
「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」桜庭一樹

「ななつのこ」加納朋子

「グラン・ヴァカンス」飛浩隆

「マイナス・ゼロ」広瀬正

「七瀬」三部作 筒井康隆

「太陽の塔」森見 登美彦

「夜市」恒川光太郎

「永遠の森 博物館惑星」菅浩江

「魍魎の匣」京極夏彦

「十角館の殺人」綾辻行人

「すべてがFになる」森博嗣

「虚無への供物」中井英夫

「月の影 影の海」小野不由美

「精霊の守り人」 上橋菜穂子

「ミミズクと夜の王」紅玉いづき

「クレヨン王国の十二か月」福永令三

「銀河鉄道の夜」宮澤賢治

「こころ」夏目漱石

「豊饒の海」四部作 三島由紀夫

「砂の女」安部公房

「国語入試問題必勝法」清水義範

「美味礼讃」海老沢泰久

「深夜特急」全6巻沢木耕太郎
「朗読者」ベルンハルト・シュリンク
「日の名残り」 カズオ・イシグロ

「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ

「ガープの世界」ジョン・アーヴィング
「悪童日記」三部作 アゴタ・クリストフ
「燃えるスカートの少女」エイミー・ベンダー

「航路」コニー・ウィリス

「シャーロック・ホームズの冒険」作・コナン・ドイル

「香水ある人殺しの物語」パトリック・ジュースキント

「奇術師」クリストファー・プリースト

「星を継ぐもの」 ジェイムズ・P・ホーガン
「リプレイ」K・グリムウッド

「夏への扉」ロバート・A・ハインライン
「華氏四五一度」レイ・ブラッドベリ

「ずっとお城で暮らしてる」シャーリイ・ジャクスン

「闇の公子」タニス・リー

「ボートの三人男」ジェローム・K・ジェローム

「あしながおじさん」ジーン・ウェブスター
「人間の土地」サン=テグジュペリ

「フェルマーの最終定理」サイモン・シン
アンネの日記(増補改訂版)」アンネ・フランク

January 16, 2009

「黒百合」

「月曜日にまた遊ぼうや」
「うん、そやね。月曜は午後からやけど、かまへん?」
 おさげ髪の尻尾を後ろに払いながら微笑む香を見て、私はーーそしてきっと一彦もーー月曜の午後がとても待ち遠しく思えた。

「黒百合」多島斗志之著(東京創元社) ISBN: 9784488024383

1952年夏、六甲山で出会った二人の少年と一人の少女。みずみずしい恋心と、彼らを取り巻く衝撃の人間模様。

ブロガーの間で評判の一冊を読む。深緑のカバーイラストがぴったりの、物静かな筆致だ。ミステリーとしては、難しいというか、今ひとつすっきりしないと思う。正直、ラスト3ページのどんでん返しは読んで一瞬、飲み込めなかった。えっ、あの人とあの人は一体何だったの? どうしてこんな大どんでん返しが必要なの? …単純な反射ではありますが。

でも、様々な伏線に思い当たった後で、ミステリーの仕掛けとは別に、登場する二人の女性の魅力がじわじわと染みてきた。一人は主人公の少年が親しくなる香。もう一人は時を遡った1935年、少年の父がベルリンで知り合った二十歳の真千子。共に複雑な境遇を抱え、不器用にもがきながら生きていく。けれども、知的で、凛としたプライドがある。
そしてページからたちのぼる時代の雰囲気が、その魅力を際立たせている。香の場合は高度成長のとば口であり、古い関西の上流階級のイメージを漂わせながら、その後の激しい価値観の変動を予感させる。一方の真千子の1935年は、「グランドホテル」そのまま、暗い時代へと転がり落ちていく不穏な空気のただ中だ。そんな、それぞれの時代に前を向き、顔を上げて生きようとする女たち。

ここまで思いをめぐらせて初めて、アクロバティックなどんでん返しのドラマを、自分なりに味わえた気がした。すべてが遠い回想として語られるのも効果的。
もう一つの楽しみは、関西弁の心地よさだ。登場する女たちがよく口にする、「ふん」という相づちが柔らかい。(2009・1)

 「黒百合」多島斗志之 東京創元社 233P 1,575円 2008/10  とにかく読まないと…

January 15, 2009

「フロスト気質」

マレットはひとつ咳払いをして口を開いた。「その、不幸にして起こってしまった昨晩の事故で、幹部クラスの警察官五名が骨折を負い、治療のため現在も入院を強いられている」
「それじゃ、悪いことばかりでもなかったわけだ」とフロストは言った。
 マレットは、その発言については無視することにした。

「フロスト気質」R・D・ウィングフィールド著(創元推理文庫) ISBN: 9784488291044  ISBN: 9784488291051

ハロウィーンを迎えたイギリスの田舎町、デントン。次々と起きる大小様々な事件にフロスト警部が立ち向かう。

評判のシリーズの最新作(上下巻)を読んでみた。いやー、面白かったです。

まず感じたのは、1日がすごく長いってこと。冒頭、メインと思われる少年行方不明事件が勃発して、休暇中のはずのフロスト警部が運悪く捜査に駆り出されるのだけれど、その後、別の事件が次々に起こって、肝心の少年行方不明事件が動き出すのは、ようやく300ページあたり。
でも、その長さを感じさせないのが、えらい。事件はそう格好良く、整然と起きてはくれない。刑事たちは組織人である以上、大事件に取り組む間にも、小さな事件に遭遇すればそれも放置できない。フロスト自身、忙しすぎて誰が誰だか時々わからなくなる、その感じがリアルだ。

そして、いかにもありそうな職場の人間模様が読ませる。やることなすこと保身だらけの上司、野心まんまんの女性部下、怠惰で愚痴が多くて憎めない同僚、などなど。お仕事ってこうだよなー、警察小説ってこうだったよなー、と思い出す感じです。

下巻に入ってから捜査が行き詰まって、ちょっとストーリーは停滞するんだけれど、こここそがフロストの面目躍如ではないでしょうか。なにしろ、これでもかというほど駄目人間。ひっきりなしにお下劣なギャグや憎まれ口を繰り出して、笑わせてくれるだけではない。根拠薄弱な勘に頼って捜査を指揮し、無茶を重ね、それで成果が上がらないと落ち込んで、やけ酒をかっくらった挙げ句、飲酒運転までしてしまう。それはないでしょ、仮にも刑事なんだから。これがテレビドラマ化されて堂々電波にのってるというのが信じられないくらい、駄目駄目です。でもチャーミングなんだなあ。浅はかな言動も、決して自分のためじゃない。心根が温かくて、周囲が思わず手をさしのべてしまう。「フロスト気質(かたぎ)」っていう邦題も、うまい。

終盤、再び事件が動き出してからは怒濤の展開。フロスト警部は骨身を惜しまず、自ら現場に飛び込んでいく。ねつ造も隠蔽も、もう誰も責めませんよ。拍手。すでに著者が亡くなり、フロストシリーズの長編は本書を除いてたった5作というのが悔しい。芹澤恵訳。(2009・1)

 フロスト気質  それよりもアノ本の話
R・D・ウィングフィールド『フロスト気質 上・下』  浅読み日記

January 07, 2009

「なほになほなほ」

物心つかんうちから北新地を歩き廻り、三味線や唄や浄瑠璃を子守歌に育ちました。これではませまんなあ。

「なほになほなほ 私の履歴書」竹本住大夫著(日本経済新聞出版社) ISBN: 9784532166793

1924年生まれの人間国宝にして、現役ばりばりの人気大夫が、味わい深い大阪弁で語る自伝。

文楽初心者として、平成11年の新聞連載を元にした住大夫伝を楽しむ。
実父が文楽の三味線弾き、養父が大夫、実母と養母は芸者の美人姉妹。育ったのはお初天神の裏手というから、この人は骨の髄まで洒脱だ。お茶屋遊びが過ぎて嫁はんにとっちめられる、やんちゃなエピソードもチャーミング。でも、とことん浄瑠璃が好きな稽古の虫で、後輩にはめっぽう厳しい。文楽の標準語は関西弁、楽屋で「東京なまり」でおしゃべりなんて許せん、と相変わらず激しくおかんむりだ。こういう人がいて、リアルタイムでその芸を鑑賞できるというのは、幸せだなあ。

桂米朝や片岡仁左衛門らとの対談と、300年ぶりに復曲した浄瑠璃節の元祖「源氏十二段」の床本を収録。(2009・1)

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