「暴走する資本主義」
モノを買うときの個々の消費者の好みについては資本主義はますます反応がよくなったが、市民としての私たちみんなが望むことに対する民主主義の反応は鈍くなる一方である。
「暴走する資本主義」ロバート・B・ライシュ著(東洋経済新報社) ISBN: 9784492443514
クリントン政権で労働長官を務めた経済学者が、「スーパーキャピタリズム」が引き起こした社会状況を分析。
クルーグマンに続き、個人的に「民主党政権交代シリーズ」で読んでみた。著者の主張は明快。ひたすら利潤を追い求める企業による、巧妙なロビー活動によって、民主的な政策決定がゆがんでいるという状況を、豊富な事例で説いていく。
では、企業をそういう行動に駆り立てる原因は、どこにあるのか。グローバリズムは全く無縁ではないが、著者が目を向けるのはむしろ、一般国民自身の選択だ。消費者として安い商品を求め、また投資家として、虎の子の投信の少しでも高いリターンを願う。そういう身近な振る舞いが企業を動かし、巡り巡って自らの雇用や、近隣コミュニティーの安全などを揺るがしている。だから一人ひとりがそう認識して選択を変えれば、本来の民主主義を取り戻せるかもしれない、というわけだ。
にわかには共感できない論調もあった。企業が利益追求と両立させつつ、すすんで社会的責任を果たす試みの効果を、かなり強く否定していること。それから、企業に対し納税などの責任の免除とセットで、政治参加の権利を制限する提言などだ。
しかし、格差や非正規雇用の問題など、日本でも切実になっている様々なイシューについて、その背景、メカニズムを整理するには格好の一冊だと思う。日本において多くの福祉を担ってきた企業という存在そのものについても、考えさせられる。雨宮寛・今井章子訳。(2008・12)
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