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November 03, 2008

「やわらかな遺伝子」

遺伝子こそが、人間の心に学習や記憶、模倣、刷り込み、文化の吸収、本能の表現をさせているのである。遺伝子は人形使いではないし、青写真でもない。さらにはただの遺伝形質の運び屋でもない。一生のあいだ活動を続け、お互いにスイッチを入れたり切ったりし、環境に対して反応しているのだ。

「やわらかな遺伝子」マット・リドレー著(紀伊國屋書店) ISBN: 9784314009614

英国のサイエンスライターが「生まれか育ちか(Nature vs Nurture)」、つまり遺伝子か環境か、という二項対立の誤りを、様々な科学分野の研究成果から解き明かす。

ちょうどヒトゲノム計画が集結した2003年の著作を、積読の山から発掘して読んでみた。最近でも米国では、個人が399ドルでDNA解析を頼めるサービスが話題となり、実際に著名起業家が自らの遺伝子変異を告白したりしている。さて、遺伝子はどのくらい人間を支配しているのか?

著者はそんな遺伝決定論にも、環境決定論にも荷担しない。原題は「生まれは育ちを通して(Nature via Nurture)」。遺伝子は実際、思った以上に人の病気や性格、嗜好、行動までもの基盤になっている。けれども、その基盤が発現する過程には、環境との相互作用があるという。

決して読みやすくないと感じた。それは科学的解説が素人にとって難しいせいだけではなく、読者に対して、一方の決定論を選ぶことで「楽になりたい」という安易な心持ちを許さないせいだろう。何かがわかってすっきりする、というより、なにやら科学に基づく人間観というものの奥深さを思わせる一冊。中村桂子、斉藤隆史訳。

マット・リドレー『やわらかな遺伝子』  mm(ミリメートル)
]マット・リドレー「やわらかな遺伝子  Close to the Wall

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