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November 22, 2008

「格差はつくられた」

経済の問題としても、また実践的な政治課題としても、格差を是正し、再度アメリカを中産階級の国にすることは可能なはずである。そしていまこそが、それを始めるときだといえる。

「格差はつくられた」ポール・クルーグマン著(早川書房) ISBN: 9784152089311

08年ノーベル経済学賞をタイミングよく受賞した、リベラル派論客による一般向け著作。「なぜいまオバマなのか」を単刀直入に語る。

実は著者には、エコノミストであると同時に、マイケル・ムーアみたいな強烈な反ブッシュコラムニストという印象をもっていて、あまりに政治的立場が鮮明なので、ノーベル賞をとったとき、ちょっと驚いてしまった。本作の脱稿は07年夏だが、その後のオバマ当選を後押ししたと思われる「進歩派」の思考を明快に解説していて、興味深い。

以下ネタバレですが、著者は、日本でもいろいろ議論があった格差の拡大について、米国においては技術革新やグローバル化が原因なのではなく、「保守派ムーブメント」の意図的な政策が招いたものだ、と断じる。こうした政策は本来、一部の業界や富裕層を利するだけの反民主的なものなのに、人々の人種差別意識を利用した巧妙な戦略によって支持を得てきたと分析。ところが、その支持は有権者の世代交代などによって崩壊しつつあり、いまこそリベラルの強力なリーダーシップのもと、国民皆保険などの格差是正に踏み出すべき、と主張する。

米国ではオバマ当選に前後して、金融危機が勃発し高額報酬を得てきたウォール街の権威が失墜。さらに、雇用と社会保障の一角を担っているビッグスリーの経営が行き詰まる事態を迎え、ますます時代はリベラル&進歩派に傾いているように感じる。

凄く頑張った人が報われる、のではなく、普通に頑張る人が安心できる社会。しかし、その「正当さ」と「成長」との関係は、今ひとつ鮮明でないように思う。状況の違いはあれど、小泉改革の修正という、よく似た国内の政治的潮流は、いったいどこへ向かうのだろうか。考える刺激になる一冊。三上義一訳。(2008・11)

書評:クルーグマンのThe Conscience of a Liberal  On Off and BeyondConscienceは良心ではない - 書評 - 格差はつくられた  404 Blog Not Found

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