「台湾紀行」
私は、台湾を紀行している。
絶えず痛みを感じつつ歩いている。
「台湾紀行 街道をゆく40」司馬遼太郎著(朝日文庫) ISBN: 9784022641489
1993年から94年にかけて台湾を旅した作家が、歩き、人と出会いながら、国家というものを考える。
思い立って、あまりにも有名な紀行シリーズの一冊を手にとった。実は、この国民的作家の文章をちゃんと読んだことがなかった。本当に今更だけど、歯切れのいい文章のリズムと、選び抜かれた感じの単語づかい、ぱあっと目の前が開けるような比喩にやられました。「帰途、日本にはもういないかもしれない戦前風の日本人に邂逅し、しかも再び会えないかもしれないという思いが、胸に満ちた。このさびしさの始末に、しばらくこまった」ーー。写経のように書き写したら、文章がうまくなるかしら。
古今のたくさんの人物のことを語っている。後藤新平のような教科書に登場する人物から、山地に住む市井の老人まで。著者の人物観が一貫して、理想とか気概とかとともに、朗らかさを重視している感じが面白い。
人々はそれぞれ時代に翻弄され、「数奇」を体現している。そういう状況が決して終わっていないことを思うと、複雑な気分。巻末に当時の総統、李登輝との対談を収録。(2008・10)
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