「パパ・ユーアクレイジー」
「それはどういう悩みなの?」
「生きているという悩みさ。ただし、私は急いでこの悩みを追い払うつもりはないがね」
「僕もそうだよ」
やがてコーヒーができあがった。僕の父は自分のカップにコーヒーを注いだ。
「パパ・ユーアクレイジー」W・サローヤン著(新潮文庫) ISBN: 9784102031032
米国西海岸に住む作家と10歳の息子との、ちょっとコミカルな共同生活。そして人が人に、会話を通じて伝えていくこと。
アルメニア移民の著者が綴る温かい物語を、20年ぶりぐらいに再読した。親子はドライブしたり、一緒に海辺を歩いたりしながら、たくさんたくさん話をする。「卵のマリブ風」という、読むだけで音と匂いが伝わってくるような料理の話や、知的な言葉遊びや、お金や仕事の話。断片的なエピソードの連続が、やがてうねりとなって、生きることの意味のようなものを語りかけてくる。
主語をなるべく略さないようにしたという伊丹十三の丁寧な訳が、しみじみとしたテンポだ。この訳者も何事につけ、手抜きをしない人だったんだなあ、と改めて思う。(2008・10)
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