「フェルマーの最終定理」
有理数だけによってこの宇宙をとらえていたピュタゴラスにとって、無理数の存在は彼の思想をゆるがすものだったのである。ヒッパソスの得た洞察についてじっくり時間をかけて議論していたならば、ピュタゴラスもこの新しい数の出現を受け入れたにちがいない。だが彼は自らの誤りを認めようとせず、かといってヒッパソスを論理的に打ち負かすこともできなかった。結局、ピュタゴラスはヒッパソスに溺死による死刑を言い渡し、後世に汚名を残すことになったのである。
「フェルマーの最終定理」サイモン・シン著(新潮文庫) ISBN: 9784102159712
SNS「やっぱり本を読む人々。」で推薦されたのを機に、読みたかった文庫を手にとる。なにをかくそう私にとって、数学は高校ぐらいから暗記科目になっていたので、このノンフィクションで解き明かされる謎の意味を、ほとんど理解できない。それなのに面白くてわくわくして、最終盤で数学者たちの間を電子メールが飛び交うあたりでは手に汗握った。
発端は紀元前6世紀に生きたピュタゴラス。その定理にインスピレーションを得て、フェルマーがあまりに有名な「余白の走り書き」を残したのが1637年。その最終定理をまた、現代の数学者アンドリュー・ワイルズが証明するまで、じつに350年もの時が流れている。なんて壮大な、知のドラマだろう。
時代も文明もはるかに超えて、美しさを失わない「数」というものの不思議。一見、実用には役立ちそうにないのだけれど、門外漢にこの宇宙のとらえ方というものを、垣間見せてくれる。
本書に登場する天才たちは意外に人間くさくて、「数」の魅力に翻弄され、人生を狂わせたりしながら、その輝きを追い求め続ける。数式の意味は分からなくても、彼らの一途さに、なんだか爽快な気分になる。そういえば「異端の数ゼロ」も面白かったな。
1994年英BBCのドキュメンタリーをもとにした1997年の著作。2000年に刊行、2006年文庫化。青木薫訳。同著者の「暗号解読」もかなりおススメ。(2008・9)
サイモン・シン/フェルマーの最終定理 木曽のあばら屋
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こんにちは。
この本は本当にワクワクしますね。
これほどドキドキしながら読んだ数学本ははじめてです。
http://www.h2.dion.ne.jp/~kisohiro/fermat.html
この本と並んで好きな数学本が、
「素数の音楽」(クレストブックス)です。
こちらはリーマン予想をテーマにした本。
リーマン予想は、確かまだ証明されていないのです。
証明した人には100万ドルが贈られるそうです。
http://www.h2.dion.ne.jp/~kisohiro/sosuu.html
Posted by: 木曽のあばら屋 | October 02, 2008 07:07 PM
コメント有り難うございました。
「素数の音楽」面白そうですね! でも耳から煙が出るのは困るなー。
Posted by: COCO2 | October 02, 2008 11:25 PM