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September 03, 2008

「戦争広告代理店」

それはブッシュ大統領の発言中のできごとだった。
「べーカー長官に国務省のスタッフが背後からそっと近づいて小さな紙を渡しました。べーカー長官が椅子の背もたれに寄りかかるようにしてその紙を受け取った瞬間、それが何の紙か見えたんです」
 それはハーフの名刺だった

「戦争広告代理店」高木徹著(講談社文庫) ISBN: 9784062750967

92年から93年当時、ボスニア紛争でもっぱらセルビア側を非難する国際世論はいかにして形成されたか。舞台裏には、ボスニア首脳に陰のように寄り添い、ブッシュ大統領との会談にまで同席していた米国の敏腕PRマン、ジム・ハーフの活躍があった。NHKディレクターが描く、情報戦という名のもう一つの紛争。

ブロガーお勧めの旧刊を読む。2000年にドキュメンタリーとして放映した番組をもとに2002年に出版、05年に文庫化したものだが、古びた感じはしない。冷静な筆致に、まず引き込まれる。

情報戦といっても、PRマンたちは怪しげな人脈を駆使したり、謀略を巡らしたりするわけではない。クライアントに対して説得力のある話し方を伝授し、絶妙のキーワードをひねり出して狙い通りの世論を喚起する。そうしたテクニックと丁々発止の交渉術には目を見張るけれども、ビジネスとして、いわばまっとうな努力を重ねているのだと思う。だからこそ、彼らのクライアントが企業ではなく、大勢の命を危険にさらして紛争を戦う国家だということに、驚きを覚える。

世論はうつろいやすく、グローバルな情報網は膨張し続けている。著者はいい悪いではなく、「大人のPR戦略」が欠如した組織は不利益を被るのが現実だ、と指摘する。今、触れている地域紛争のニュースには、いったいどんな戦略が隠されているのだろう、と考えずにはいられない。講談社ノンフィクション賞・新潮ドキュメント賞受賞。(2008・9)

 ドキュメント 戦争広告代理店―情報操作とボスニア紛争  赤エイの徒然読書画帳
高木徹「戦争広告代理店」  でがらし的読書日記

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Comments

はじめまして。でがらしと申します。トラックバック、ありがとうございます。この作品、私もとても興味深く読みました。
もし機会がありましたら、木村元彦氏の「悪者見参」も読んでみると面白いと思います。
PR戦略に敗れたセルビアの姿を描いた渾身のルポルタージュで、「戦争広告代理店」とは見事に対になる作品になっています。

コメント有り難うございました。

「悪者見参」、面白そうですね! 早速読みたい本リストに加えました。積読が多くて、なかなか辿り着かないのですが…

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