「カラスの親指」
「テツさんさあ……あんた、これからどうすんだよ」
彼が転がり込んできた夜、武沢は缶ビールを飲みながら当たり前の質問をしてみた。Dr.スランプのコップからちびちびとビールをすすっていたテツさんは、全然当たり前ではない答えを返してきた。
「飛びたいです、自分」
テツさんはそう言ったのだ。
「カラスの親指」道尾秀介著(講談社) ISBN: 9784062148054
けちな中年詐欺師コンビ、タケさんとテツさんと、その同居人たち。それぞれの過去と決別するため、一世一代のコンゲームを仕掛ける。
気になっていた著者に初挑戦。ブロガーの間でも評判の一冊。爽やかで、気持ちよーくだまされました。単純なんだけど、ほかに言うべきことがないくらい。
とにかく憎めない魅力的な登場人物たちと、散りばめられた小さなギャグ、軽妙な会話を楽しんでいるうちに、伏線をすっかり見逃したが、まあ、だまされて悔い無し。たぶん、謎解きとしてはでき過ぎなんだろうけど、決して脳天気ではないから、切なさと一筋の希望が胸にしみて、納得してしまう。そのへんのバランスが、うまい。
足の小指を何かにぶつけて痛がる、そんな間抜けぶり、隠そうとしても隠しきれない「人の良さ」が、ささやかな人生を支えていく。いい映画になりそうな一冊です。キャストには、タケさんは光石研、テツさんは案外、木梨憲武とか? 「読者大賞」2008年新刊本ベスト4位。日本推理作家協会賞受賞。(2008・9)
カラスの親指〔道尾秀介〕 まったり読書日記
カラスの親指 道尾秀介 今更なんですがの本の話
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