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September 05, 2008

「利腕」

「レースに勝てよ」私がいった。
 パッと、いかにも嬉しそうな表情になった。「よし」きっぱりといった。

「利腕」ディック・フランシス著(ハヤカワ・ミステリ文庫)  ISBN: 9784150707187

突然調子を崩す本命馬や、馬主組織をめぐる疑惑。依頼を受けて謎を探り始めた隻腕の調査員、シッド・ハレーに魔の手が迫る。

SNS「やっぱり本を読む人々。」で推薦しようと思いたち、競馬シリーズのなかからずいぶん久しぶりに再読。知性と勇気をうちに秘めた、抑制のきいたヒーロー像がいかにもフランシスだ。一歩間違えるとマッチョになってしまうテーマだけれど、決してそうではないと思う。なかなか乗り越えがたい階級社会を背景にしているせいなのか、主人公の言動には、心身の強さをひけらかしたり、周囲に誉めてもらおうとはしない潔さがある。でも、自分の誇りがどこにあるかは、自分がいちばんよく知っているのだ。

中盤、シッドが思いがけず気球に同乗し、無謀なレースに手を貸す場面がスリリングで楽しい。疑惑を追う本筋とはあまり関係なさそうに思えるが、いっとき空を駆けるレースに付き合ううちに、主人公の闘争心が解き放たれる、その感じがなんとも爽快。菊池光訳。(2008・9)

 『利腕』ディック・フランシス  全読書リプレイ

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