「幕末バトル・ロワイヤル」
権力闘争はいつの時代にもあるが、幕末には特別それが煮詰まった状態になる。政治責任が重くのしかかってきて、ぎりぎりの当事者責任が問われるからである。ただ出世がしたいだけで老中になった輩は、猛烈な勢いで篩にかけられることになった。
「幕末バトル・ロワイヤル」野口武彦著(新潮選書) ISBN: 9784106102066
著名な文芸評論家が、豊富な文献から意外なエピソード、スキャンダルをピックアップして幕末を語る歴史読み物。
前半は水野忠邦の台頭から失脚までの権力闘争、後半はペリー来航で混乱を極める幕府外交を描く。幕末といえばドラマチックな舞台だけれど、著者の視点はあくまで人間くさく、下世話だ。前半で繰り返される大名の配置転換の解説などは、現代の企業社会に通じるわかりやすさ。稚拙な財政再建策とか防衛の無策ぶりとか、なんだか似たりよったりというか、「週刊新潮」連載で人気を博しているのもうなづける。
ペリーの動静について来航の1年前に情報を掴んでおきながら、風説だとごまかして何も手を打たなかった官僚たち。否応なく傾いていく組織のありようが、ちょっと悲しい。(2008・9)
野口武彦「幕末バトル・ロワイヤル」 不知森の日記
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