「ポプラの秋」
ポプラの木は、行き場がないなんてことは考えない。今いるところにいるだけだ。そして私も、今、ここにいる。
「ポプラの秋」湯本香樹美著(新潮文庫) ISBN:9784101315126 (4101315124)
突然父を亡くした七歳の私と母は、茫然自失のまま庭にポプラの木が茂るアパートに移り住む。そこには子供嫌いで、見るからに怖い大家のおばあさんがいた。
またまたSNS「やっぱり本を読む人々。」の推薦文庫。8月中に投票するつもりで、たくさんの推薦作のなかから薄いものを選んで読んだ。わずか200ページちょっとだが、いろんな思いが詰まった美しい物語だった。
まずチャーミングなのが、ポパイに似ていて、意地っ張りみたいな憎まれ口をたたく大家のおばあさん。孤独なあまり心にとげが生えてしまった少女に、ある日、お伽噺のような「取引」をもちかける。
事件らしい事件は起きないが、二人を中心とするアパートの住人たちの日常、ささいなやりとりが、コミカルで温かい。口下手なやもめのタクシー運転手、西岡さんの部屋で、日がな一日寂しさを紛らす落語が流れている、といったエピソードに、妙にしみじみしたりする。そうだよな、そういうときは落語だよな。
「取引」は18年もの時を経て、成長した少女の心の奥で固くなってしまったとげを癒す。人と人は愛すればこそ、寄り添えないことがある。傷つけてしまうことがある。だけど忘れられないのなら、届かなくても伝え続けるしかない。そうして元気を出して、高い秋の空の下、落ち葉を掃き、焚き火をし、お芋を焼くのだ。(2008・8)
『ポプラの秋』 都会の片隅で
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