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August 24, 2008

「赤めだか」

この人は天才だと思った。
「明日のポトフなァ、何を入れるか」
 と云いながら冷蔵庫の中から、またかまぼこを取り出して、
「挑戦してみるか」とつぶやいた。
 僕は少し気が遠くなった。

 昭和五十九年三月、なごり雪の降る日に僕は立川談志の弟子になった。

「赤めだか」立川談春著(扶桑社)  ISBN:9784594056155 (4594056156)

古典に定評ありといわれる人気噺家が、主に自らの前座時代を綴った大評判のエッセイ。

ひと言で言うと、評判通り。とにかくテンポと口調がいい。電車の中で何度も、声を出して笑ってしまい、最後の小さん師匠のエピソードでほろり。

登場人物がまさに落語だと思う。ノンフィクションというには職業柄、脚色が含まれるのかもしれないけれど。著者自らも、兄弟弟子たちも、彼らが畏怖と敬愛を抱く談志も、それぞれに、とんでもない奴というか、はちゃめちゃな言動を繰り広げる。理不尽な修業に耐えて二ツ目に昇進し、晴れて憧れの紋付を手に入れるという大事な資金を、なんで競艇の一発勝負で稼ごうとするのか。

彼らはしょっちゅう怠けたり、嫉妬したりもする。でも自分なりの情熱や意地が、ちゃんとあるのだ。著者自身を含めて人間を見つめる視線が、厳しく、それでいて温かいのが印象的。談志の名言どおり、底流にあるのは「人間の業の肯定」なのだろう。

一度だけ一門会で、談志さんと談春さんをみたことがある。「志の輔らくご」には結構足を運んでいる。チケットをとるのは大変だけど、もっと高座をみたいなあ、と思う。こういう芸にまつわる「歴史」を、当事者が記録しておいてくれる、ということも嬉しい。講談社エッセイ賞受賞。(2008・8)

「赤めだか」立川談春 あおちゃんのお茶ばなし
『赤めだか』 著者 立川談春  オナジソラノシタ

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