「ウォッチメイカー」
リンカーン・ライムは何よりも先に科学者だ。心の言うことは信じない。
「ウォッチメイカー」ジェフリー・ディーヴァー著(文藝春秋) ISBN:9784163263304 (4163263306)
冬のニューヨークを震撼とさせた連続殺人。現場にはアンティークの時計が残されていた。元ニューヨーク市警科学捜査部長、リンカーン・ライムと「ウォッチメイカー」との頭脳戦。
07年の話題作をようやく読む。実は500ページのうち300ページくらいまでは、評判ほどじゃないという気がしていた。シリーズものを7作目からいきなり読むという無謀なチャレンジのせいか、珍しくフィクションを2冊同時に読んでいたせいか、と思ったけれど、これがとんだ間違い。油断していたらラストに向かってがんがん覆され、ひねられ、寄り倒されました。
どんでん返し続きで、ともすれば無理矢理な感じもしてしまう展開を支えるのが、捜査技術の描写だ。犯人との対決にプラスして、科学捜査と心理捜査が対決する。その細部がとても興味深い。
そうしたディテールに加えて魅力的なのは、リンカーンの人物像だ。厳しいプロ意識や毒舌は、ベッドサイド・ディティクティブと呼ぶにはあまりに個性的。だからこそ、ラストにかいま見せる誠実さに、「ちょっとちょっと話がうま過ぎるんじゃないの」などとつぶやきながらも、思わずじんとさせられる。猟奇的な感じがする導入の印象を見事に裏切り、読後感のよいエンタテインメント。池田真紀子訳。(2008・7)
◎◎「ウォッチメイカー」 ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋 2200円 2007/10 「本のことども」by聖月
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