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July 12, 2008

「ウォッチメイカー」

リンカーン・ライムは何よりも先に科学者だ。心の言うことは信じない。

「ウォッチメイカー」ジェフリー・ディーヴァー著(文藝春秋) ISBN:9784163263304 (4163263306)

冬のニューヨークを震撼とさせた連続殺人。現場にはアンティークの時計が残されていた。元ニューヨーク市警科学捜査部長、リンカーン・ライムと「ウォッチメイカー」との頭脳戦。

07年の話題作をようやく読む。実は500ページのうち300ページくらいまでは、評判ほどじゃないという気がしていた。シリーズものを7作目からいきなり読むという無謀なチャレンジのせいか、珍しくフィクションを2冊同時に読んでいたせいか、と思ったけれど、これがとんだ間違い。油断していたらラストに向かってがんがん覆され、ひねられ、寄り倒されました。

どんでん返し続きで、ともすれば無理矢理な感じもしてしまう展開を支えるのが、捜査技術の描写だ。犯人との対決にプラスして、科学捜査と心理捜査が対決する。その細部がとても興味深い。

そうしたディテールに加えて魅力的なのは、リンカーンの人物像だ。厳しいプロ意識や毒舌は、ベッドサイド・ディティクティブと呼ぶにはあまりに個性的。だからこそ、ラストにかいま見せる誠実さに、「ちょっとちょっと話がうま過ぎるんじゃないの」などとつぶやきながらも、思わずじんとさせられる。猟奇的な感じがする導入の印象を見事に裏切り、読後感のよいエンタテインメント。池田真紀子訳。(2008・7)

◎◎「ウォッチメイカー」 ジェフリー・ディーヴァー 文藝春秋 2200円 2007/10    「本のことども」by聖月

July 10, 2008

「星を継ぐもの」

「ようし、これで貴様とおれの一騎打ちというわけか、え?」彼は宇宙に向かって悪態をついた。「いいだろう、罰当たりめが……やれるものならやってみろ」

「星を継ぐもの」ジェイムズ・P・ホーガン著(創元SF文庫)    ISBN:9784488663018 (448866301X)

2020年代。月面で発見された宇宙服を着た死体は、鑑定の結果、人類誕生のはるか前に死亡していたとわかる。「彼」はいったい何者で、その文明はどこから来たのか。科学者たちの英知を集めた探究が始まる。

読書SNS「やっぱり本を読む人々。」の推薦文庫にチャレンジした。こういう出合いがなければ、絶対読みそうになかった気がする。SFに慣れていないし、字は小さいし、正直、最初はなかなか調子がでなかった。

「ハードSF」の名作ということで、主役はいわば科学そのものなのだろう。情緒的な描写は少ないのだけれど、中盤から、必死に謎を追うことで意外な真実に近づいていく科学者たちの興奮が読む側に伝わり、どんどん熱を帯びてくる。宇宙と進化をめぐる、スケールの大きな知的冒険の物語だ。

出版は77年。77年といえばスター・ウォーズスタートの年。政治的には米ソデタントか。宇宙のフロンティアや人類という存在に対する希望を、鮮やかに描くラストには、ちょっと虚をつかれた。フィクションの力は、やっぱり凄い。池央耿訳。(2008・7)

「星を継ぐもの」J・P・ホーガン 辻斬り書評

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