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June 16, 2008

「のぼうの城」

 秀吉は、三成の返答をきくなりそう命じ、続けて、三成のその後の人生を決定付ける運命的な下知を与えた。
 「館林城を落せば、武州忍城をすり潰せ」
 そして同時に武州忍城も、戦国合戦史上、特筆すべき足跡を残した城として、運命付けられたのだった。

「のぼうの城」和田竜著(小学館) ISBN:9784093861960 (409386196X)

秀吉天下統一の終盤、小田原征伐。石田三成率いる2万の大軍に、忍(おし)城わずか2千の兵が闘いを挑む。指揮官は、領民からでくのぼうと呼ばれる男だった。

08年上半期の話題作を読んだ。評判通り、一気に読める戦記物。まず、忽然と水に浮かぶ忍城の姿が、宮崎アニメ「千と千尋の神隠し」の一場面のようで絵になる。そして歴史に残る名勝負は、それだけでドラマチックだ。

著者はこの舞台に、魅力的な登場人物を配してテンポのいい娯楽作を生み出した。活躍する武将3人は冷静な丹波、豪腕の和泉、美青年靱負(ゆきえ)。まさに講談の王道「三銃士」の取り合わせに男勝りのヒロインが加わり、乱暴なやりとりが歯切れ良くユーモラスだ。

しかも彼らを率いる主人公、成田長親(ながちか)の造形が、ダルタニヤンとは180度かけ離れているのが憎いところ。運動神経ゼロのぬうぼうとした大男で、領民から面と向かってバカにされている。何を考えているのか、あるいは何も考えていないのか、勇者か臆病者か、正か邪か。不思議な掴みどころのなさで、300ページを引っ張っていく。

意地に生きる悲運の男、三成との対比もうまい。どんなマニュアルも逸脱した「天然」のリーダー。側にいたらイライラするだろうなあ、と思いながらも、拍手を送ってしまう。映画化にも期待。(2008・6)

「のぼうの城」和田竜  しんちゃんの買い物帳

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Comments

こんばんは。
SNSから飛んできました。
三成は生来の潔癖症だと個人的に思っています。
その三成と対照的なのぼう様が良かったです。
それに個性的な家老たちにも魅力があって
最後には嫌われ者の三成までカッコいい。
悲惨なのは長束正家だけでしたね。
注釈は少しうるさかったけれど、これは面白かったです。

しんちゃんさん、いつもお世話になってます! 

そうかあ、読後感がいいのは皆それぞれに格好いい幕切れだからですね。

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