「リヴァイアサン号殺人事件」
「こんなこともできますよ。目隠しをして、その人の立てる音や匂いからその人についていろいろなことがわかります。なんだったら、確かめてみてください」
そして白いサテンのネクタイをとって、クラリッサに渡した。
「リヴァイアサン号殺人事件」ボリス・アクーニン著(岩波書店)ISBN:9784000246347 (4000246348)
19世紀末、パリの富豪邸で起きた大量殺人。刑事は容疑者を追い、スエズ運河からインドへと処女航海に向かう豪華客船「リヴァイアサン号」に乗り込む。
ロシアのベストセラー。印象は、様々なミステリーの要素を詰め込んだ、遊び心満載の一冊という感じ。客船に乗り合わせ、謎解きに挑む外交官ファンドーリンは頭脳明晰な美青年で、ホームズばりの洞察力をみせつける。客船という密室で起きる殺人事件と、それぞれ曰くありげな乗客たちの人間模様はクリスティ風だし、東洋の財宝を狙う謎の女詐欺師や、ドタバタの舞台回し役を演じる刑事のキャラクターはルパンものを彷彿をさせる。そういう「いかにも」な雰囲気を、楽しんで読んだ。
ミステリーとしては、さほど凝ってはいないかもしれない。しかし、多国籍な登場人物同士のやりとりの中に、当時の欧州列強の軍拡競争やら、西洋と東洋の相容れなさやらが、嫌みにならない程度に散りばめられ、知的な雰囲気がある。著者がもともと日本文学者とあって、日本人アオノが登場し、ことあるごとに陳腐な句をひねるのもご愛敬だろう。
そして、ひとり悲しみの淵に沈むストークス氏の独白が、なんだか余韻を残す。「ペンギンの憂鬱」の沼野恭子訳。(2008・6)
『リヴァイアサン号殺人事件』 を読んで。 貼雑帖
『リヴァイアサン号殺人事件』 わかばの日記2nd
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こんにちは。
あまり「本格ミステリ」という感じじゃなかったですが
ひとつの出来事が多視点(それも国籍の異なる)から描かれる、
その語り口が楽しかったです。
Posted by: 木曽のあばら屋 | June 07, 2008 10:58 PM
木曽さん、コメント有り難うございます。
そうですねー。語り口の書き分け方が、手練れって感じですよね。
Posted by: COCO2 | June 08, 2008 01:28 AM