「傭兵ピエール」
ジャンヌはいいたいことをいってしまうと、ひとりで膨れ面をつくった。どう機嫌をとったものか。ピエールは途方に暮れて視線を下げた。
--俺はいつも損な役だ。
「傭兵ピエール」佐藤賢一著(集英社文庫) ISBN:9784087470154 (4087470156) ISBN:9784087470161 (4087470164)
15世紀、フランス。百年戦争末期を舞台に、ジャンヌ・ダルクと傭兵ピエールが繰り広げる恋と冒険。
個人的なことだが先日、文楽鑑賞を初体験した。いろいろ感想はあるのだけれど、ひとつ改めて感じたことがある。それは、他愛ない嫉妬や恋のさや当て、それから「○○、実は○○」という登場人物の「正体明かし」は洋の東西と問わず、物語世界の普遍的な要素だということ。文楽、歌舞伎はもちろん、モーツアルトのオペラにも、シェイクスピアにも顔を出す。そして佐藤賢一という人は、まぎれもなく現代に生きながら、このいわば古典的な要素をきっちり構築できる、希有な作家だと思う。
「王妃の離婚」に続いて、佐藤作品を読むのはまだ2作目。下世話さがより濃厚で、文庫で上下巻を読み通すと少し胃もたれするくらいだ。こういう下世話さの印象は、男と女の造形に負うところが大きいと思う。つまり、ジャンヌはあくまでも正論ばかりを言い立てる、狭量で世間が見えていない愚かな女。一方のピエールは、仕事ができて部下に慕われているけれども、徹底的に女にだらしなく、暴力的で高潔さのかけらもない男。ピエールの視点から描かれる二人の対比は、なんとも俗っぽい。好き嫌いは分かれるだろうけど、これこそが古今東西、庶民の心をとらえてきた「物語のツボ」なのかもしれない。
しばし現実を忘れ、芝居小屋ならおひねりを投げたいようなクライマックス。読んでいる間はあまり意識しないけれど、時代や舞台の選び方もうまい。現代からかけ離れているが、全くピンとこないわけでもない感じの設定だ。 (2008・5)
「傭兵ピエール」佐藤賢一 日々是読書日記
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