「テロマネーを封鎖せよ」
そしてわたしはスタンフォード大学のキャンパスから数キロの森の中の小村にある、バックス・オブ・ウッドサイドというレストランを選んだ。このレストランはシリコンバレーのベンチャー・キャピタリストや起業家が商談や会社設立について話し合う場所として評判だった。私たちの協議は何千億ドル規模に上るだろうが、レストランの雰囲気はこうした話し合いに適していた。
「テロマネーを封鎖せよ」ジョン・B・テイラー著(日経BP社) ISBN:9784822246235 (482224623X)
中央銀行の金利決定に関する「テイラールール」の考案で有名な経済学者が、米財務省次官として経験した国際金融外交の裏表を綴る。
著者は9・11直後の世界的なテロ資金凍結や、イラクの通貨切り替え、中国元の変動相場制移行をめぐる駆け引きなどに、八面六臂の活躍をする。映画のワンシーンのようなホワイトハウス・シチュエーションルームの戦略会議、人目をはばかる通貨マフィアたちとの秘密会合、軍輸送機で乗り込むバクダッド。歴史を動かしたエピソードの連続だ。
子供じみた感想だけれど、有力者の回顧録というのはイコール、自らの功績をめぐる自慢話の連続だと思う。かつてべーカー元国務長官の回顧録「シャトル外交 激動の4年」(新潮文庫)を読んだときも、同じようにその自負心の強さにちょっと圧倒されたのを思い出した。
とはいえ、著者のずば抜けた知性ゆえか、翻訳が巧みなのか、読んでいて嫌みな感じは受けない。もちろん米国の金融政策にはいろいろと議論があるのだろう。あるいは、著者があえて触れていない本当の裏話があって、それを知ったらまた、違う印象をもつのかもしれない。けれども、本物のエリートの仕事ぶりに、素朴に感嘆したのも確かだ。嫌みを感じさせる余地もなく、実にクリア。まず明確な目標を設定し、絶えず部下を鼓舞し、自らも勤勉に働く。信じる「正義」に対し、一切の迷いはないのだ。中谷和男訳。(2008・5)
ジョン・B・テイラー『テロマネーを封鎖せよ』 Economics Lovers Live
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