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April 24, 2008

「ゴールデンスランバー」

開くと、懐かしい字が目に入り、思わず眼を細めてしまう。「俺は犯人じゃない。青柳雅春」の文字があった。
「知ってるって」

「ゴールデンスランバー」伊坂幸太郎著(新潮社)  ISBN:9784104596034 (4104596035)

仙台で勃発した未曾有の首相暗殺事件。訳も分からず「オズワルド」にされた青年がたどる、必死の逃避行2日間。

私は嫌いな食べ物がほとんど無いので、「食わず嫌い王決定戦」に出ることになったら困るなあ、なんてよく考える。だが、作家には「食わず嫌い」が結構あり、その一人がこの著者だった。比較的初期の1作だけ読んだことがあるのだけれど、どうも肌が合わないと感じ、その後、ブロガーの間で大人気なのを知りつつも、なんとなく手が出なかった。

で、ようやく今回の話題作を読みました。なにしろ「本屋大賞」「読者大賞」ぶっちぎり2冠のエンタメ大作。いやー、一気読みでした! スピードとユーモアがたっぷり、陰惨な暴力やお色気はなし。5ページにひとつ、というくらいの伏線大盤振る舞い。そして主題は「人間の最大の武器は信頼」。ディズニーの大人向け映画のように、爽やかで実によくできている。食わず嫌い、返上です。

勝手ながら、主人公の青柳のイメージは「巻き込まれ型つながり」で玉木宏。いや、年齢が合うのは伊藤英明でしょうか。ただ一人、貴重な不気味さを放つキャラクターの三浦は、藤原竜也。それから、出番は少ないけれど意外と説得力が必要なのが、樋口晴子の夫ではないかと。まっとうな普通人の懐の深さを感じさせる人で、加瀬亮さんとか… いろいろ想像するのも楽しい。山本周五郎賞も受賞。

ちなみに読んでる間のカバーはSNS「本を読む人々。」のかたがたが作ってくれた綺麗な「限定ブックカバー」でした。他にも種類があって素敵です。自慢。 (2008・4)Cover_2

「ゴールデンスランバー」伊坂幸太郎  本を読む女。改訂版
伊坂幸太郎【ゴールデンスランバー】  ぱんどらの本箱
『ゴールデンスランバー』 伊坂幸太郎  Roko’s Favorite Things

April 18, 2008

「眼の誕生」

過去に対する解釈に欠けているものがある。それは色彩である。

「眼の誕生」アンドリュー・パーカー著(草思社) ISBN:9784794214782 (4794214782)

英、豪で活躍する研究者が、カンブリア紀大進化の謎に対する答え、「光スイッチ説」を提起する。

カンブリア紀の爆発といえば、何といってもスティーブン・ジェイ・グールド著「ワンダフル・ライフ」(ハヤカワ文庫)だ。化石から再構築される摩訶不思議な生物。進化の意外性に触れた、あの興奮は忘れられない。わき上がるのは、「こんな生き物がいたのか!」という素朴な驚き。本書はその驚きの世界に、新たに「色彩」を施し、ぐっとリアルに感じさせてくれる。

やがて、そんな色をとらえる器官、「眼」の成り立ちに話は及び、「生命史上初めての眼」が見た世界を描き出す。「眼以前」と「眼以後」の格差は歴然だ。決してライトな読み物ではないし、論証されている仮説の確からしさも素人には判別できない。けれども、色とか、眼とか、「あって当たり前」のものがどこから来たのか、に思いをはせるひとときは刺激的だ。渡辺政隆・今西康子訳。(2008・4)

眼の誕生  竹蔵雑記

April 05, 2008

「火怨」

「(略)敵はほとんどが無理に徴収された兵ばかりで志など持っておらぬ。我ら蝦夷とは違う。我らは皆、親や子や美しい山や空のために戦っている」
「山や空のために……」
 猛比古は胸を衝かれた様子で繰り返した。

「火怨 北の燿星アテルイ 」高橋克彦著(講談社文庫)ISBN:9784062735285 (4062735288)、ISBN:9784062735292 (4062735296)

平安の昔、強大な朝廷に敢然と闘いを挑んだ陸奥(みちのく)の英雄、阿弖流為(アテルイ)がたどる熱い日々。

ブロガーお勧めの文庫上下巻を読んだ。岩手県出身の著者が描く、疾風怒濤の戦記もの。私は古代史の知識どころか東北の土地勘もほとんど無いので、慣れない地名や人名がたくさん登場したけれど、スピード感があってすいすい読めた。

阿弖流為たち蝦夷(えみし)は初め、朝廷から未開の人々と侮られている。しかし実は、したたかな知恵と勇気をもち、ひとたびまとまって立ち上がると、朝廷軍に対して何度も完璧な勝利をおさめる。数では圧倒的に劣るにもかかわらず、だ。知将、母礼(もれ)が繰り出す、地の利を生かした奇襲や籠城作戦。迫力の戦闘シーンと、見事に敵の裏をかく勝ちっぷりが、まず痛快だ。

知恵だけではない。作戦を貫徹するため、蝦夷たちは確かな技術と強い意志をもって兵を鍛え、武器をそろえ、砦を築いていく。その若きリーダー、阿弖流為の求心力を支えるのは誇りと仲間への信頼、つまりは「男気」だ。絵に描いたような人物造形が、わかりやすくていい。物語の中盤、こっそり敵地の都にもぐり込み、宿敵坂上田村麻呂と「男気対決」するあたりのワクワクは、デュマの「三銃士」を彷彿とさせる名調子だ。

しかし私たち読者は、歴史の中で阿弖流為の王国が築かれたことはないと、あらかじめ知ってしまっている。では、戦う意味は何なのか。長い闘いの後に、いったい何が残るのか。深い悲しみが、余韻を残す。吉川英治文学賞受賞。(2008・4)

「火怨 北の燿星アテルイ」上下 高橋克彦  Ciel Bleu

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