「メディチ・マネー」
皮肉屋のコジモ・デ・メディチは言った。「長さ二反の赤い布があれば、名士がひとり作れる」
「メディチ・マネー」ティム・パークス著(白水社) ISBN:9784560026236 (4560026238)
15世紀フィレンツェで、一介の商人から支配者にのし上がったメディチ家五代。英国の作家が、その成功と苦難を数々の史料から読み解く。
高金利が背徳とみなされていた時代に、いかにして金融業が地位と権力を手にしたか。もちろん論点は違うけれども、「ファンド資本主義」とか「カジノ経済」といった、マネーに対する今日的な不信、不快感に一脈通じるテーマである。金は単なる価値のものさしに過ぎないはずだけれども、えてして「実体」を振り回す、不実な厄介者になりがちだ。
近代へのとば口で、国際的な金融グループを経営したメディチ家の男たちは、その富と「交換の技法」を駆使して権威ある教会を丸め込み、投票さえも操って政治的な地歩を固めていった。と同時に、慈善事業を「神の勘定」として誇らかに帳簿にしるし、才能ある画家のパトロンとなって自らの肖像を聖画に残した。著者は結論を急がず、こうした善と悪、本音と建て前が交錯する銀行家の横顔を丹念に、人間くさく描いている。
「金は無限の数の主人に仕えることができる。(略)価値は目立たない中立の単位に分割され、どんな杯にも流れ込み、金貨の雨はどの金庫にも降り注ぐ」ーー。そもそも金そのものには、善も悪もないのだ。文脈はやや難解だが、マネーとはこんなにも昔から怪物めいていたのかと思わせて興味深い。北代美和子訳。(2008・1)
メディチ・マネー 一冊たちブログ
« 「赤朽葉家の伝説」 | Main | 「盗聴 二・二六事件」 »
Comments